2012年夏からクラウドサービスにOpenFlowを取り入れ、仮想ネットワークを含めたワンストップサービスの提供を表明しているNTTコミュニケーションズ(関連記事1関連記事2)。大手通信事業者によるSDN(Software Defined Network)の取り組みとして注目を集め、米国サンタクララで開催された「Open Networking Summit 2012」(ONS2012)のキーノートスピーチには、同社の伊藤幸夫 理事 サービス基盤部長が登壇した。ONS2012の会場内で伊藤部長にさらに詳しくサービスの開発状況などを聞いた。
(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション


今夏に開始する予定の仮想ネットワークサービスの進捗状況は。

NTTコミュニケーションズ 理事 サービス基盤部長 伊藤幸夫氏
NTTコミュニケーションズ 理事 サービス基盤部長 伊藤幸夫氏
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 着々と準備を進め、現在追い込みをしているところだ。夏に開始予定のサービスは、昨年の「NTT Communications Forum 2011」で打ち出した「グローバルクラウドビジョン」に基づいて、ポータル画面からワンストップで、コンピュータリソースとリソース間のコネクティビティを提供できるようにしていく。仮想ネットワークだけを提供するのではない。

 SDNを使った仮想ネットワークの最大のメリットは、個々のネットワーク機器を設置・設定する時間を短縮できる点だ。ネットワーク設定の複雑さも軽減できる。これによって企業ユーザーはネットワークリソースを含めたサービスをオーダーした後、素早く利用できるようになる。我々にとってはネットワークの運用管理の面でコスト削減できる利点がある。

 我々のサービスでは、データセンター内の仮想ネットワークを含めたワンストップクラウドサービスに加えて、豊富なバックボーンを活用してデータセンター間についても同様のサービスを提供していく。

 このような体制を整えることで、企業ユーザーへのサービス提供の方法を変えられる。これまでは専用線やWANなどをパーツごとに選択してもらう形が多かった。これからは企業ユーザーが何をしたいのかを言ってもらえれば、ワンストップでネットワークを含めて提供できるようになる。

サービス提供用のネットワーク基盤の構成は。

 夏に開始するサービス用の基盤はほぼ準備が終わっている。検証自体はOpenFlow対応ハードスイッチ、ソフトスイッチの両面でやっているが、最初のサービス開始時はハードスイッチによる提供が先になるだろう。

SDNは新たな取り組みであるため、苦労もあったのではないか。

 コンピュータリソースを管理するクラウドコントローラーとSDNを実現するネットワークコントローラーをいかに連携させるのかに苦労した。ここがワンストップでサービスを提供する上でキーになる。互いに会話できるかどうかかから始まり、確認に時間がかかった。

 SDNについてもただ動作すればよいのではなく、我々が求める品質が必要になる。OpenFlowはあくまでSDNを実現するためのプロトコルであり、サービス仕様を実現するためのソフトウエアの実装が大変だった。ただし限られた時間の中で、かなりスピーディーに進められたと思う。夏のサービス開始に向けたこの経験が、今後のサービス拡充にも生きると考えている。

SDNはネットワーク機器をレイヤー分離することで、市場自体を変えるポテンシャルがあると感じる。また米グーグルのようなプレーヤーがOpenFlow対応スイッチを自作するなど、これまでのネットワーク市場とは違った動きも出てきている。

 ネットワーク機器がレイヤー分離することで、機器のコモディティー化が進むだろう。我々としては機器のコモディティー化によるCAPEX(設備投資のための支出)の低減を期待している。

 機器の自作はサーバーも自作しているグーグルのようなプレーヤーならありえるが、我々が同じようなアプローチを取ることは難しい。グーグルの動きを見て、各ベンダーがどのように対応していくのか興味深く見ていきたい。

伊藤部長はOpen Networking Foundation(ONF)のボードメンバーでもあり、OpenFlowの標準化にもかかわっている。NTTコムとして追加したいOpenFlowプロトコルのスペックなどは。

 ONFに参加するのはグループ内で1社という決まりがあるため、NTTグループを代表して私がONFに参加している。実はNTTグループの中にはOpenFlowについての連絡会があり、何か動きがあるたびに各社で情報を共有している。

 近く勧告が出るOpenFlow 1.3が一つの区切りになると捉えている。まずはOpenFlow 1.3の中身をしっかりレビューした上で、次のバージョンから追加要望があれば訴えていきたい。

 NTTグループとしては、OpenStackやCloudStackなどのクラウド基盤との連携に注目している。このようなクラウドコントローラーとOpenFlowの連携は、もう少し標準化してもよいかもしれない。