「スタートアップとは実験である。顧客や製品がはっきりしない段階にある組織は、大企業内の取り組みであってもすべてがスタートアップだ」。

写真1●「リーン・スタートアップ」著者のエリック・リース氏
写真1●「リーン・スタートアップ」著者のエリック・リース氏
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●最大の無駄とする「時間の浪費」の排除を訴えるリース氏
写真2●最大の無駄とする「時間の浪費」の排除を訴えるリース氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「リーン・スタートアップ」の著者として知られるエリック・リース氏(写真1)がこのほど初来日、2012年4月6日に開催されたイベント「アマゾン リーンクラウド レボリューションセミナー」で講演した(関連記事)。講演で同氏は冒頭のように語り、リーン・スタートアップの手法が、若い企業だけでなくあらゆる組織に適用可能だとした。

 続いてリース氏は、リーン・スタートアップの根幹の理念である無駄の排除の重要性について語った。その重要性が増している背景には、クラウドの普及などにより、起業が以前よりも簡単になっていることがあるという。「今や、欲しいと思ったものは何でも作ることができる。だから、何を作るべきかが問題なのだ」。同氏は、起業が増えた現在の課題として「誤った問いを設定し、それに正しく答えているかもしれない」ことを挙げる。顧客が欲しいとは思わないものを作り、時間を浪費し、結局だれも得をしないことはやめようと繰り返し呼びかけた(写真2)。

最悪の状況に陥ってからでは遅すぎる

 続く話題は「ピボット」(方向転換)。リーン・スタートアップのキーワードの一つであるピボットは、米国でもビジネス上、一般的に使われるようになっており、経済紙の風刺画でも取り上げられるほど。必要以上に各種リソースの調達をすることを避けるため、状況に応じてできるだけ早くピボットするべきだとした。

 逆に、判断が遅れた例を取り上げ、「特に大企業では、悪い状況になるまで我慢し、最悪のタイミングでミーティングしがちだ」と指摘した。「悪いニュースでもあったほうがいい。居心地のいいミーティングを望んではいけない」と、都合の悪いデータを隠すことなく早い段階で共有すべきだと提案した。

 実は「リーンの起源はトヨタ自動車の生産システムにある」(リース氏)。同氏によると、米国では、急成長を続けた日本を意識してナーバスになった時期があり、トヨタが北米に自動車工場を作ったときには「日本と米国は違う。成功できるのか」と懐疑的な声があったという。結局、トヨタは北米でも品質の高い生産システムの構築に成功、懐疑的な考えが誤りだったことが分かった。そこで、トヨタに代表される日本の手法を共有したいと考えたことが、リーン・スタートアップにつながったというのだ。導かれた結論は、単にロボットを導入することが重要なのではなく、理念こそが大事だというものだった。

クラウドは21世紀のアーキテクチャ

写真3●米アマゾン・ドットコムCTOのヴァーナー・ボーガス氏
写真3●米アマゾン・ドットコムCTOのヴァーナー・ボーガス氏
[画像のクリックで拡大表示]

 今回のイベントでリース氏と共に講演をしたのが、米アマゾン・ドットコムCTOのヴァーナー・ボーガス氏(写真3)。同氏は、画像や音楽データを基に動画コンテンツを作成できるサービス「animoto」などの例を紹介しながら、企業の成長にあわせてコンピューティング資源を増やすことができるクラウドとスタートアップの親和性の高さを解説した。リーン・スタートアップの「無駄を省く」という理念を引き合いに出し、「クラウドは、煩雑な作業を取り除いて企業の資源を顧客の利益になることに集中できる、21世紀のアーキテクチャーだ」と語り、来場者にクラウドの利用を薦めた。

 ボーガス氏は、アマゾンがスタートアップのためにメンタリング(助言)と教育活動に積極的に取り組んでいるとし、その一例として「AWSスタートアップチャレンジ」を紹介した。これは、地域ごとの予選を勝ち抜いたスタートアップによるグローバルコンテストで、優勝者には10万ドル相当の賞金(5万ドルの現金と5万ドルのAWS利用権)が得られる。