一般財団法人、危機管理教育&演習センターは2012年3月15日、「お互いさまBC連携ネットワークを活用した成長戦略」と題して事業継続マネジメント(BCM)をテーマとするセミナーを開催した。同セミナーには、同団体のコンサルタントのほか、新潟県庁関係者、政府関係者らが登壇。大災害の下で中小製造業が事業継続する鍵は、他地域または他国の同業者との連携にあると訴えた。

新潟県では134社が助け合い活動に登録

写真1●新潟県産業労働観光部産業政策課産業政策グループの近田孝之氏
写真1●新潟県産業労働観光部産業政策課産業政策グループの近田孝之氏

 同セミナーにはまず新潟県産業労働観光部産業政策課産業政策グループの近田孝之氏(写真1)が登壇、同県内の企業と他県の企業との非常時の連携を図る「お互いさまBC連携ネットワーク」の取り組みを紹介した。

 この取り組みは、大規模災害が発生した時に、支援物資の供給、人員派遣、代替加工先の紹介といった被災企業支援を、自治体立ち会いの下で図るもの。東日本大震災の被災企業支援を目的とした募集は2011年4月から新潟県内で開始した。

 2011年10月現在で134社が登録。既に代替生産や設備貸与など10件程度の支援実績があるという。福島県南相馬市のすっぽん加工業者に新潟県内の加工場物件を紹介したり、宮城県電機商業組合に作業工具を無償提供したりしている。

 また、新潟県庁のホームページでは、2012年1月から中小製造業向けのBCP(事業継続計画)のひな型を無償公開した。ここでも代替生産のための提携先を記載することを前提とするなど、中小企業に代替生産拠点の確保を促している。

国主導で日本・タイの中小企業の非常時連携を推進

写真2●タイで国家経済社会開発委員会政策顧問を務めている松島大輔氏
写真2●タイで国家経済社会開発委員会政策顧問を務めている松島大輔氏

 続いて、経済産業省から派遣され、タイの国家経済社会開発委員会政策顧問を2011年9月から務めている松島大輔氏(写真2)が登壇。日本の中小企業グループとタイの工業団地の連携を図り、互いに被災時に代替生産を行える制度作りを両国で進めていることを説明した。この取り組みは「シスタークラスター」と呼ばれている。

 2012年7~9月には正式に制度内容を公表する目標だという。併せて、提携先としてのタイ工業団地の持続可能性を評価する方法の標準化、日本とタイの企業提携から生まれる新規ビジネスに対して民間金融機関を巻き込んで金融支援するフレームワーク作りも、両国の協力で進めている。

 年内にパイロットプロジェクトを立ち上げるための候補選定にも既に着手しているという。

「復旧戦略のBCPでは事業継続できない」

写真3●危機管理教育&演習センター理事長および特定非営利活動法人危機管理対策機構事務局長を務める細坪信二氏
写真3●危機管理教育&演習センター理事長および特定非営利活動法人危機管理対策機構事務局長を務める細坪信二氏

 セミナーの最後に、危機管理教育&演習センター理事長および特定非営利活動法人危機管理対策機構事務局長を務める細坪信二氏(写真3)が登壇、「中小製造業はBCPより先に、事業継続戦略(BCS)の策定に取り組むべきだ」と提言した。

 東日本大震災の発生直後、宮城県内の中小企業はBCP通りに行動するどころではなく、生産活動に必要な油の確保に血眼になっていたことを、まず振り返った。「一般的に、中小製造業が2週間以内に生産活動を再開できなかった場合、発注元から金型を引き上げられるなどして、サプライチェーンから外されてしまう。だがいくらBCPを策定しても、現地の復旧戦略だけでは事業継続が困難なケースは現実に発生している」(細坪氏)と警告した。

 そして「中小企業経営者が急いで考えるべきは、顧客を奪われる心配なく代替生産を任せられる紳士協定を遠隔地の企業と結ぶことだ。『国内空洞化を促進するのか』『顧客を奪われる』と心配する経営者は少なくないが、業務委託協定や守秘義務契約などのノウハウ蓄積は自治体や国主導で進んでいる」とし、新潟県やタイなど自治体や国が仲介する中小企業同士の連携ネットワークに参加するよう訴えた。