情報サービス産業協会(JISA)は2012年3月末に、報告書「情報サービス産業におけるIFRS対応に向けた会計処理事例集」の提供を開始する。受託ソフトウエア開発を主業務とするIT企業がIFRS(国際会計基準)を適用する際に、どのような影響を受けるかを67の事例を通じて説明する。JISA会員企業には無償で配布し、会員以外には有償で提供する予定だ。

 報告書で対象としている項目は、(1)収益認識、(2)棚卸資産(IAS第2号)、(3)有形固定資産(IAS第16号)、(4)無形資産(IAS第38号)、(5)研究開発費(同)の5種類。(1)の収益認識に関しては、IFRSの設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)が2011年11月に公表した改訂公開草案「顧客との契約から生じる収益」に基づいている。改訂公開草案は、IAS第11号(工事契約)とIAS第18号(収益)を改訂するものだ。

 報告書では(1)~(5)ごとに、論点と事例を挙げている。(1)では収益認識時点の論点について「システム開発における分割契約と収益認識のタイミング」「システムアウトソーシング」「クラウドサービス」など24の事例を、(2)では標準原価計算や不利な契約など八つの論点について「サーバーの直送取引」「受注ソフトウエアの評価減の戻し入れ」など11の事例を取り上げている。

 それぞれの事例では、内容や前提条件、IFRSで想定される会計処理、解説などを図を使って示している。例えば(5)の「開発ツールおよびフレームワークの処理」では、「販売用ソフトの開発にあたり、生産コスト削減を目的として開発ツールとフレームワークを制作する」という事例について、IFRSで想定される会計処理を二つのケースに分けて示している。

 この事例では、過去にツールとフレームワークを制作した実績がなく、将来の生産コスト効果が不明確な場合(ケース1)は費用処理する。IFRSに基づく開発資産計上の要件を満たさないと思われるからである。一方、過去にツールとフレームワークを制作した実績があり、生産コスト削減効果が確実である場合(ケース2)は、IFRSに基づく開発資産計上の要件を満たすと判断できるので、資産計上する。

 報告書では、こうした事例をIFRSに関する解説とともに説明している。上記の事例では、IFRSに基づく開発資産計上の要件として「技術上の実行可能性」や「企業の意図」など6点を、判断の例とともに示している。

 報告書を作成したのは、JISAの企画委員会財務税制部会。部会内のIFRS WGに参加した13社が、IFRS対応を先行する会員企業へのヒアリング結果を基に、事例の設定と各事例における会計処理の検討を担当した。「IFRSの基準を読んでも、どう対応を進めればよいかのイメージがわかない。IT企業に共通する事例を通じて、どのような影響を及ぼすかをつかみやすくするのが狙い」(JISA)とする。

 JISAは2011年に、「情報サービス産業におけるIFRS影響度に関する調査研究」を実施(関連記事:IT企業の会計処理への影響を分析(前編)同(後編))。今回の事例集作成は、この後継事業となる。3月13日には、この報告書に関するセミナー「情報サービス産業におけるIFRS対応に向けた会計処理事例集 報告書説明会」を開催する予定である。