写真●大和ハウス工業の加藤恭滋・執行役員情報システム部長(撮影:直江 竜也)
写真●大和ハウス工業の加藤恭滋・執行役員情報システム部長(撮影:直江 竜也)
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 「当社は社内システムの“フルクラウド化”を目指していく」。大阪で初開催となるクラウドコンピューティングの専門展「Cloud Days Osaka 2012」が、2012年3月8日に幕を開けた。多くの立ち見が出た初日の基調講演で、大和ハウス工業の加藤恭滋・執行役員情報システム部長が企業システムにおけるクラウド活用の成果や今後の意気込みを語った(写真)。

 加藤部長はまず、大和ハウス工業がクラウドを積極活用するに至った背景を説明した。同社がクラウド環境の整備を検討し始めたのは、まだ「クラウド」という概念がほとんど普及していなかった2006年頃のことだ。

 既に同社の情報システム部門には「ハードやソフトの保守サポート期間のサイクルに従って、その都度システムのリプレースに多大な投資をかける。こうした企業システム構築のあり方で本当に良いのだろうか」という強い問題意識があったという。「何年後かに必要となるリソースを予想してインフラのサイジングを見積もる、といった従来のやり方では、もはやシステム投資の最適化などできない。そうではなく、システムインフラを“サービス”として安定的に利用できる仕組みを何とかして構築できないだろうかと考え抜いた」(加藤部長)。さらに、システム部員自身の運用業務の負荷が高まっていたことも悩みの種だった。

 同社にとって、こういった課題を解決するための突破口が「プライベートクラウド」だった。まず「大規模かつ高いセキュリティを必要とする独自システムを対象に、プライベートクラウド環境で動かす」(加藤部長)という方針を採用。当初はいわゆる情報系のシステムから移行を開始した。具体的には2008年4月、全社員が使用するファイル共有サーバーをプライベートクラウド上で動かした。次いで2010年1月には日報報告やワークフロー関連のシステムを、さらに同年4月からは社外公開用のWebサイトを、このインフラ上で稼働させた。

 こうして実績を重ねつつ、基幹系システムについても2010年8月からプライベートクラウド環境に移行させる段階に入った。まず手を付けたのは会計システム。インフラの保守サポート切れによるリプレース時期が迫っていた。ただ当時は2012年4月稼働をメドとする基幹系全体の刷新プロジェクトも別途進んでいた。そこでシステム投資の最適化を図るため、まずは新たな基幹系システムの基盤としても活用できるようなプライベートクラウド環境を先行して用意し、その上で会計システムを移し替えるという手法を取った。

3年で社内サーバーが600台から350台に激減

 大和ハウス工業が運用しているクラウドコンピューティング環境はこれだけではない。2009年8月からは、社内メールシステムを対象にSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の利用を始めた。加藤部長は同社におけるSaaSの適用範囲について「当社システムのうち、全社員が日常的に利用しているもの、グローバル拠点でも活用するもの、独自のカスタマイズが不要なものに向いている。こうした観点からまずメールシステムに適用した」と話す。さらに同社は「ハイブリットクラウド」までも活用中だ。2009年4月から社内ポータルサイトをこの環境で動かしている。

 このように様々なクラウド環境を組み合わせて運用することで、同社はインフラ面でも情報システム部門の業務についても大きな成果が上がっているという。加藤部長によれば「2008年4月時点に約600台あった社内のサーバー群を順次クラウド上に移管し、集約も行った結果、2011年3月時点で約350台になった」という。今後はコールセンターシステムや、各部門が独自に運用しているシステムについても、2013年3月末を目標にハイブリッドクラウドに移行させていく方針だ。

 さらに同社はクラウドを、顧客との接点となる営業現場でもフル活用しようとしている。例えば米Appleのタブレット端末「iPad 2」を、営業担当者を中心におよそ4000台配布済みだという。狙いは営業のワークスタイルを変革し、提案力強化と業務効率化を進めて販売拡大を図ることだ。

 現在は営業担当者が出先から社内システム(グループウエアなど)にアクセスしたり、電子化したカタログや販促ツール、ナレッジなどを共有し、商談時などに手軽に活用できるようにしている。さらに加藤部長は今後の利用イメージについて「2012年内をめどに、当社の社員と顧客、取引先のインターネットを介して情報を共有し、コミュニケーションを活性化させるような仕組みを構築したい」と述べた。

 講演の終盤では、クラウドの活用でどのような成果が上がったかについても言及した。

 インフラの維持管理業務にかかる手間やコストについては、3割以上の削減効果があったという。また「“今必要なリソースはどれくらいか”という視点でシステム化を進められるので、過剰なシステム投資の抑制にもつながっている。システム構築期間の大幅な短縮も大きなメリットだ」と、加藤部長は話す。

 一方で、クラウドコンピューティング環境においてセキュリティや信頼性をどう担保していくかについては、まだまだ発展途上だとの見方を示した。さらに「現状は個々のクラウド環境ごとにベンダーの“ロックイン”になりがちだが、(システムの開発・運用の標準化が進み)特定の開発ベンダーに頼らずともクラウドを構築できるようになるのが本来の姿だと思う」と、クラウドに対する今後の期待を述べ、講演を締めくくった。