写真●SAS Institute Japanの北川裕康マーケティング本部長(写真:中根 祥文)
写真●SAS Institute Japanの北川裕康マーケティング本部長(写真:中根 祥文)
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 「ビッグデータを活用している企業としていない企業の間では、財務内容に明らかな差がある」--。統計分析ソフトなどを提供するSAS Institute Japanの北川裕康マーケティング本部長(写真)は2012年2月29日、クラウドコンピューティング専門展「Cloud Days Tokyo/スマートフォン&タブレット/ビッグデータEXPO」で講演。ビッグデータが企業にもたらす利益について語った。

 まず北川氏はビッグデータに注目が集まる背景として、グローバル化やソーシャルメディアの台頭などを上げた。グローバル化で人の勘や経験が通用しにくくなっており、企業では「予測・発見型の分析」に活路を見いだしている。機器同士がIPネットワークを介して通信し合う「M2M(マシン・ツー・マシン)」が普及している。また、ソーシャルメディアによる膨大なつぶやきや会話が飛び交っており、膨大な情報分析のニーズが高まっている。金融商品や自然災害などは高度なリスク管理が必要で、リスクが増えている社会背景もビッグデータへの関心が高い理由という。

 北川氏は、ビッグデータの示す範囲を「データの量やスピード、多様性が、企業でタイムリーな意思決定のために持つコンピュータやストレージを超えてしまっている」とする定義を紹介。ビッグデータは相対的な考え方であり、コンピュータの処理能力向上や時代によって該当するシステムやデータは変わるとの見方を示した。

 ビッグデータの典型例が、連続的に吐き出される大量データである。過去の分析に用いる日次や月次の集計データに対し、連続的なデータを常時分析すれば、(1)将来を含め最適な機会を予測する、(2)アクションや傾向を強化する、(3)事象の効果を高める--ことが可能になるという。

 北川氏は、ビッグデータの活用で効果を挙げた事例も挙げた。豪通信大手のテレストラは顧客データの分析手法やシステムなどを見直し、販売促進キャンペーンに対する効果が15%向上した。複数のノードに計算処理を分散させる「グリッドコンピューティング」の製品を用い、データの処理時間は11時間から10秒と、4000倍に高速化したという。

 小売業の支援サービスを展開する米カタリナマーケティングは、2.5ペタバイトの顧客データに新たな分析技術を導入。データウエアハウス(DWH)などにあらかじめデータベース機能を組み込んでデータを扱う「インデータベース処理」を導入し、処理時間を4.5時間から60秒に短縮した。分析手法も見直し、クーポンの償還率を従来の10%から25%に向上させたという。

 小売業では、利益を最大化する「値下げ」の分析に使う例を挙げた。蓄積した過去データを分析し、在庫処分セールなどでの望ましい価格設定を、店舗や商品ごとに導き出す。動作が高速な半導体メモリー上でデータベースを運用する「インメモリー処理」や分散処理を導入。従来は30時間かかっていた2億7000万通りの組み合わせ分析を、2時間で処理できるようになった。

 SASのデータ分析用製品は、グリッドを採用する「SAS Grid Computing」やインデータベース処理用の「SAS In-Database」、インメモリー処理を採用した「SAS In-Memory Analytics」で主に構成する。北川氏が挙げた事例でも使われ、秒単位での高速データ処理を可能にする技術を搭載する。北川氏は高速処理のメリットを、「質問が陳腐化する前に思考のスピードで分析結果が得られる」などと指摘。ビッグデータを活用するには、専用の高速処理コンピュータの活用が不可欠とした。