東京海上ホールディングスの澁谷裕以執行役員IT企画部長
東京海上ホールディングスの澁谷裕以執行役員IT企画部長
[画像のクリックで拡大表示]

 「コンピュータは人類史上、最もユーザーに負担をかける商品だと感じてきた。電力のように、プラグをソケットに差し込めば、いくらでもコンピュータを利用でき、コンピュータのお守りから解放してくれるクラウドコンピューティングには大いに期待している」。

 2012年2月28日に幕を開けた「Cloud Days Tokyo/スマートフォン&タブレット/ビッグデータEXPO」。立ち見も出た初日のキーノートスピーチに登壇した東京海上ホールディングスの澁谷裕以執行役員IT企画部長は、クラウドコンピューティングの可能性を熱く語った。グループのシステム子会社に1400人以上の社員が在籍するが、その2割を基盤・運用業務、すなわち「コンピュータのお守り」に割いている。「自分自身も運用に携わった経験があり、その重要性は十分理解しつつも、ユーザー企業がこれだけのリソースを割くべき業務なのかと感じることもあった」と話す。

 現在米セールスフォースのクラウドサービス「Force.com」を活用。工場などを対象とした企業保険の更改手続きシステムでは、開発期間を当初の見積もりの12カ月から8カ月に短縮し、開発費も8億円から2億円に圧縮するなどの効果を生み出した。

 一方でクラウドの品質を向上していくうえでは、「課題と解決策を公共知として企業間でシェアする」「ITベンダーはサービス運用の透明性を確保し、ユーザー企業の知る権利に答える」といった取り組みが必要と訴えた。

 特にサービス運用の透明性については、「『クラウドだから見えなくてよい』というベンダーの姿勢には問題がある」と指摘。「当社は保険契約を通じて顧客のデータを責任を持って預かっている。どんな場所でどんな管理をされているかを知る義務がある。万が一クラウド上で情報漏洩が起こったら、直接修復に動いて被害を最小限に食い止めなければならない」と利用企業としてのスタンスを示した。

 クラウドの発展を電力ネットワークの歴史になぞらえて語った澁谷執行役員だが、次の言葉には会場中が大きくうなづいた。「電力の世界もついこの間までは、一般市民は電気がどう作られているかを知らなくていいと思っていた。しかしそれではいけなかったことを、今日本中が反省させられている。クラウドもその轍を踏んではいけない」。

 こう語った澁谷執行役員は、「社会インフラを、オープンに一緒に創っていこう」というITベンダーへの呼びかけで講演を締めくくった。