写真●左からNTTドコモの山田隆持社長、辻村清行副社長、岩崎文夫常務
写真●左からNTTドコモの山田隆持社長、辻村清行副社長、岩崎文夫常務
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 NTTドコモは2012年2月21日、一連のネットワーク障害への対策の進捗を発表した。山田隆持社長は「2月19日までspモードの信頼性向上策、パケット交換機の総点検を実施した結果、現時点でspモード、パケット交換機ともに安定して運用できる状態と確認できた」と説明。「信頼性回復の第一歩を踏み出せたと思う」と自己評価した(写真)。

 具体的には以下の通り。2011年12月25日に社長を本部長とする「ネットワーク基盤高度化対策本部」を設置。組織、業務、設備の見直しを進めてきた。組織面ではspモードシステム再検証を担う「高度化推進室」の設置、人為ミス撲滅プロジェクトの発足、監視体制や障害対応体制の強化を実施した。今後、NTTグループからの10~20人のIP系技術者を招き入れる予定だ。

8月上旬までにspモード信頼性向上を完了

 spモードシステム設備については、(1)接続手順の変更、(2)新規開発したメール情報サーバーの導入、(3)スマートフォン5000万台に耐えうる拡張性の再検証を2月19日までに実施した。接続手順の変更は、具体的にはパケット交換機から端末へのIPアドレス通知を、spモードシステムのIPアドレス登録完了後に行うシーケンスに変えた。「仮にspモードシステムに障害が発生しても、ユーザーのメールアドレスが別のアドレスに置き換えられるようなことは絶対に起こらないようにした」(山田社長)。

 さらに今後、4月下旬、8月上旬と段階的に「バーストトラフィック」への対策を実施する。バーストトラフィックとは、装置故障などで一斉に端末がネットワークに再接続して、一時的に大量のトラフィックが発生することを指す。4月下旬にはパケット交換機とspモードシステムの間の伝送路が途切れるケースへの対策を実施し、8月上旬にはユーザー情報を管理する装置で障害が発生したケースへの対策を行う。

 2月19日まで実施したシステムの拡張性の再検証によって、「ユーザー数が増えた分だけシステムを増設することで、スマートフォン5000万台にも拡張可能であると確認できた」(山田社長)。これを踏まえ、12月末までにspモードシステムのサーバーソフトの改修、ネットワーク機器の増設などを実施して、spモードシステムの処理能力を向上させる。

制御信号対策は4月末までに一段落

 一方、制御信号の増加が原因となったパケット交換機の障害については、2月19日までに全国のパケット交換機の総点検を実施した。パケット交換機のソフトを改修して、1月中旬から制御信号の数を可視化して確認できるようにした。今回の結果を踏まえ、2月25日から4月末まで、処理能力の高い「新型パケット交換機」を全国で40台増設する。

 パケット交換機障害は、都内一部エリアで現行パケット交換機から新型パケット交換機に切り替えたことで発生した。そのため、現在は切り替え工事前の構成に戻して応急的な措置をしている。都内では2月25日に新型パケット交換機を増設して、制御信号の処理能力をさらに高める構成に変更する。

 今後は同時接続数のリソース使用率、制御信号のリソース使用率を監視して、ピーク時にどちらかが設備容量の80%を超えた場合に設備を増強する。「パケット交換機は10台で一つのプールを構成しており、これまではそのうち1台が故障しても大丈夫という前提で設計してきた。今後はさらに1台分の余裕を見て『80%』という数字で運用していく」(山田社長)。

 1月中旬のパケット交換機のソフト改修までは、制御信号の数は可視化できていなかった。この点については「制御信号に対する考えが甘かった。スマートフォンの台数が伸びる中で、トラフィックばかりに目を奪われていた。(障害の原因となった)新型パケット交換機の要求仕様でも、制御信号については考慮できていなかった」(山田社長)と反省の弁を述べた。

グーグルとの対話は「すでに始まっている」

 根本対策として、制御信号を減らす取り組みも進める。12月末までに無線接続手順の最適化などを実施する予定である。

 1月に発生したパケット交換機の障害は、コミュニケーション系アプリなどが待ち受け中に通信するKeep-Aliveパケットが引き金になった。数分に1回のペースでデータ量の小さいパケットを通信するだけだが、通信のたびに無線通信のパスを設定する必要があった。無線通信の接続、切断が発生すると制御信号が流れ、それが大量になってパケット交換機が処理しきれなくなった。

 無線接続手順の最適化では、無線通信のパスを維持する時間などを見直す。「1回の接続で複数のアプリの通信を完了できないか検討する」(山田社長)。

 このほか、グーグルと協力してAndroidのOSレベルで制御信号の発生を抑制する取り組みも進めている。「グーグルとはすでに話を始めている。具体的な内容はまだこれからということもあるし、守秘義務もあるので現時点では話せない」(辻村清行副社長)。

 2月15日には「(同社ポータルサイトの)dメニューでのアプリ提供者への感謝の集まりがあり、そこで制御信号の仕組みやネットワークへの影響を説明した」(辻村副社長)。将来的には設備やOSの改修状況を踏まえつつ、ガイドラインなどで「モバイルネットワークに配慮」したアプリ設計を呼びかける。海外のアプリ開発者に対しても業界団体のGSMAを通じて、あるいは複数事業者の共同声明などの形で呼びかけを実施する考えだ。