写真●IASB(国際会計基準審議会)のハンス・フーガーホースト議長
写真●IASB(国際会計基準審議会)のハンス・フーガーホースト議長
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 「日本はボードメンバーとして、さらに基準策定の面でも、より影響力を発揮してほしい」。IFRS(国際会計基準)を策定するIASB(国際会計基準審議会)のハンス・フーガーホースト議長(写真)は2012年2月9日、記者向け懇親会でこう語った。フーガーホースト議長はオランダ政府で財務大臣などを務め、2011年7月に前任のディビッド・トゥイーディー氏に代わってIASB議長に就任した。

 フーガーホースト議長は、日本はIASBに対して「これまでも深く関わってきた」と評価。「IASBに理事を一人出し、トラスティー(財団)にも二人参加している。IFRSへのコンバージェンス(収斂)も継続して実施している。IFRSの任意適用が始まっている点では、米国に先行している」と語る。2012年10月には東京にIASBとしては初めてのサテライトオフィスを開設する予定だが、「日本のこれまでの貢献に対する感謝の意味もある」とフーガーホースト議長は話す。

 問題は、影響力を発揮するための条件だ。それには日本がIFRSを強制適用(フルアドプション)する必要があると、フーガーホースト議長は主張する。「日本がIFRSを適用していなくても、ASBJ(企業会計基準委員会)や関係者の意見は聞く。我々はアイデアが優れているかどうかを重視しているからだ」とする一方で、「基準の設定には妥協が避けられない。特に、主張している意見が他と異なる場合、全体の利害調整が必要になる」と語る。

 「言いにくいことだが」と前置きした上で、フーガーホースト議長は「日本の主張を受け入れたとして、直接影響を受けるのは、現状ではIFRSを任意適用している5社だけだ」と続ける。「日本がIFRSの強制適用を受け入れて、IASBが行使した、あるいは行使しなかった結果により、3000社が影響を受けると主張したほうがはるかに影響力は大きくなる。国益を考えて、日本が影響力を適切に行使したいのであれば、可能な限り早く(強制適用の採用を)決定することを勧める」とフーガーホースト議長は語った。

 だからといって、「来年にすぐ導入せよと言っているわけではない。数年の移行期間は必要だ」とフーガーホースト議長は言う。ただ、「もうすぐIASBと米国とのコンバージェンス作業が終了し、新たなアジェンダが始まる。このタイミングを逃さず、日本が存在意義を打ち出すことが必要ではないか」とフーガーホースト議長は語った。

 日本でのIFRS適用方針は、2011年6月の自見庄三郎 金融担当大臣の談話をきっかけに見直しの議論が進んでいる。「談話を聞いた当初は失望した」とフーガーホースト議長は語る。だが、その後、状況を理解したとする。「東日本大震災後の復旧のため、企業は会計よりも優先すべきことがあった。IFRS対応にコストがかかる事情もあった」。

 だが、フーガーホースト議長は記者向け懇親会の前日に自見大臣と会い、「会話の雰囲気から受けた印象」として、「日本は間違いなく強制適用への道を歩んでいる」と感じたという。「自見氏からは、『IASBとの緊密ぶりは変わらず、IFRSの強制適用に関しても真剣に考えている。日本がIFRSから離れようとしていると解釈しないでほしい』と言われた」と語る。