写真1●日本マイクロソフトと東京大学先端科学技術研究センターが共同開発した「Lime」
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写真2●Limeで記録した漢字変換候補のログデータ
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写真3●東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授
写真3●東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授
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写真4●東京大学先端科学技術研究センター 講師の近藤武夫氏
写真4●東京大学先端科学技術研究センター 講師の近藤武夫氏
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 日本マイクロソフトと東京大学先端科学技術研究センターは2012年2月9日、高校・大学の入学試験において、肢体不自由や書字障害のある生徒たちが鉛筆の代わりにパソコンを使って受験することを支援するソフトウエア「Lime(ライム)」(写真1、2)を共同開発したと発表した。パソコンでの日本語入力時に変換候補として表示されたすべての漢字をロギングするソフトで、試験時にパソコンが適切に使用されたことを証明する。

 Limeは、Windowsのアクセシビリティ機能、および日本語入力ソフト「Microsoft Office IME 2010」の機能を用いて、日本語入力時に変換候補として表示されたすべての漢字を記録するソフトだ。漢字変換候補のログをとることで、例えば、漢字の書き取り問題の答えを探すために変換機能を使わなかったかどうかなどが分かる。試験時にパソコンが適切に使用されたことを証明可能にすることで、一般の受験生との公平性を担保しつつ、肢体不自由で鉛筆が持てない生徒や書字障害により鉛筆で文章を書くことが困難な生徒がパソコン利用の許可を受けやすくすることが同ソフトの目的だ。

 東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授(写真3)によると、米国の全大学生(大学学部生)1900万人に占める障害者の割合が10.8%(2008年の値)であるのに対して、日本の専門学校生・大学生(専門学校、大学学部生、大学院生)全324万人のうち、障害を持つ人の割合はわずか0.27%にとどまる(2010年の値)。「この進学率の違いは、障害を持つ学生への配慮の差からきている」と中邑教授は説明する。「小中学生を対象にした調査では、全児童生徒の4.5%に識字障害などの学習障害があることが分かっている。数十万人の子供が、大学からの配慮がないために進学しづらい状況にある」(中邑教授)。

 「現在国内では、入試でパソコンを利用することを正式に認めている教育機関はない。限られた大学が、障害児の個別の要望に応じて特例で認めているだけだ。視覚障害がある生徒には点字の試験用紙を用意する、鉛筆が使えない生徒にはパソコンの利用を認めるなど、障害により妨げられる部分以外は十分に優れた学力のある生徒に、障害への配慮を認めた上で能力を評価する試験制度が求められる」(東京大学先端科学技術研究センター 講師の近藤武夫氏 、写真4)。

 Limeの利用促進に向けて、日本マイクロソフトと東京大学先端科学技術研究センターは、「学習における合理的配慮研究アライアンス(略称:RaRa、Research Alliance for Reasonable Accommodation)」に取り組む。同日から、RaRaのWebサイトでLimeを無償配布するとともに、入学試験における障害児への配慮についての情報発信を行う。