写真●通信障害対策の会見に出席したNTTドコモの幹部。左は山田隆持社長
写真●通信障害対策の会見に出席したNTTドコモの幹部。左は山田隆持社長
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 NTTドコモが2012年1月27日、通信トラブルの再発防止策に1640億円を投入すると発表した(NTTドコモが一連の通信障害について対策を発表、2014年度までに1640億円投入 )。1時間半に及んだ質疑応答の内容を、「トラブル対策全般」「パケット交換機障害」「spモード障害」の三つに分けて紹介する。

トラブル対策全般について

半年で5回も障害があった。ドコモ特有の設計に問題があるのではないか。

 MAPS(spモードシステム)では電話番号で認証して、IPアドレスでユーザーを識別している。これは他社も同様だと思うし、世界の通信事業者もそうだと思う。この点はドコモ特有だとは思っていない。

 ただ、spモードの接続シーケンスにはドコモ特有の動作があり、特に今回はその点に落ち度があった。

 Androidは常時接続するもので、全端末に占める割合よりも絶対量が重要になる。絶対量が多いと大きなバースト的なトラフィックが発生する。例えばスマートフォンが端末全体の2割を占める事業者があったとしても、Android端末が1万台なのか1000万台なのかで全く違う。

今回の障害対策費用をユーザーに転嫁することにならないか。

 それはないだろう。我々は事業者間で値段や通信品質の競争をしている。

パケット交換機障害への対策について

障害の要因にVoIPアプリなどを挙げているが、そもそもVoIPアプリでなぜ携帯電話網の制御信号が増えるのか。

 VoIPアプリなどは動作していることを示すため、数分に1回のペースでサーバーにpingを送る。それ自体のデータ量は小さいもので、有線ネットワークでは大量になっても問題が発生しない。

 携帯電話では論理的なセッションは維持するが、無線レベルでは通信が終わるたびに切断している。周波数を有効利用するためだ。pingによって無線を接続したり切断したりする制御信号が大量に流れ、パケット交換機が制御信号を処理しきれなくなった。その結果、パケット交換機配下の基地局に自動規制がかかって1月25日の障害が発生した。

トラフィックの問題ではないのか。

 トラフィックの問題ではない。制御信号の数の問題だ。急激な伸びを予測できなかった。

今回のような「想定外」を繰り返すようでは困る。

 色々なアプリが使う制御信号を、新型のパケット交換機ではつぶさに検知できるようにする。どのようにパケット交換機に制御信号が来るのかチェックして、想定外が起こらないように先手を打って対応していく。従来のパケット交換機では制御信号の量が見えなかった。

 スマートフォンへの移行が進んでいるのは海外の通信事業者も同様だ。情報交換を進めて対策を打っていく。

アプリケーションプロバイダにも対応してもらうことになるのか。

 アプリケーションプロバイダにも制御信号を控えてもらうよう訴えかけていく。無線通信の特徴について、アプリケーションの開発者にも理解してもらいたい。アプリ作成時のガイドラインの作成を検討したいと思っている。世界の通信事業者とメッセージを出したいと考えている。

オープンなAndroidを採用するというのは、自由な開発を認めるということ。アプリケーションプロバイダにお願いするのは本末転倒ではないか。

 そこは兼ね合いでお話できないかと考えている。これまで固定通信のパソコン上で動いていたものが無線通信に入る。どうしても違いがあり、全世界で課題になっている。

Androidの仕様でインフラ負担を軽減できないのか。

 グーグルのOS開発者とすでに検討を始めている。複数のアプリの制御信号を一つにまとめて出すとか、どう連携できるか検討を進めようとしている。

今後、VoIPアプリをコントロールするようなことになるのか。

 ネットワーク中立性もあり、コントロールする方向にするつもりはない。

今回は違うとのことだが、今後はデータトラフィックそのものも課題にならないか。

 2011年から2015年でトラフィックが12倍になると予想している。データオフロードもしっかりやる。例えば公衆無線LANを3万スポットに増やしている。

 設備投資も今まではエリアを広げることに主眼を置いていたが、今はトラフィック対策がメインになっている。設備投資は毎年7000億円前後で推移しており、今後もこの水準で問題ないと考えている。

spモード障害への対策について

なぜIPアドレスと電話番号の関連付けに不整合が起こったのか。

 問題のある接続シーケンスだった。今後はIPアドレスの不整合が起こらないシーケンスに変更する。今までの方式が完全でなかった。

スマートフォン5000万台に耐えうるシステムにするとしているが、そもそも現行システムはそこまで拡張できるものなのか。

 現状のシステムで拡張できるのか、スケーラビリティをもう一度確認する。現在は確認中だ。

伝送路故障時の再接続処理を通信中ユーザーのみに変更するとしているが、端末にもアップデートが必要なのか。

 必要ない。現在のシステムでは伝送路故障で接続が切れたことを、ネットワークから端末に通知している。それによって端末が再接続するようにしている。今後はネットワークからの通知をしないようにして、再接続処理を端末に委ねる。

 Androidは28分に1回自動通信が発生するので、通信中以外のユーザーはそのタイミングで再接続となる。数分に1回通信するようなアプリを搭載している端末は、そこで再接続となる。

国際標準のMMSベースのメールシステムに変更するなど、過去のシステムから一新するわけにはいかないのか。

 今のユーザーが「docomo.ne.jp」のキャリアメールを使っていて、今後も使い続けたいというニーズが高い。スマートフォンへのニーズ自体が、今までのフィーチャーフォンでできる機能を満たしたうえで、オープンなアプリを使いたいというものが多い。簡単に過去を切り捨てるというわけにはいかない。