デジタルガレージは2012年1月18日、「アジャイル開発」と呼ばれる手法に基づいたソフトウエア開発を手掛ける海外企業2社を買収することで合意した、と発表した。デジタルガレージ米国法人の子会社としてNew Contextを設立し、この米国法人子会社を通じて、米EdgeCaseと米Pivotal Labsのシンガポール子会社を買収する。同社が推進するインキュベーション(育成)事業の一環となる。

 アジャイル開発とは、システム仕様の変更や機能追加などに臨機応変に対応できるようにソフトウエアを開発する手法のこと。プログラムの設計や実装、テストを短い期間で繰り返しながら、各種の機能を“部品”のように組み上げていく。このアジャイル開発のためのプロジェクト管理ツール「Pivotal Tracker」を提供しているのが米Pivotalで、 主要顧客にはTwitterやBest Buy、Grouponがある。EdgeCaseはRuby on Railsなどを活用したソフト開発やアジャイル開発のコンサルティングを手掛けている。

 2社の買収により、New Contextは二つの役割を担う。一つは、デジタルガレージのインキュベーション対象となった海外企業が、日本を含むグローバル市場でサービスを展開していく際の技術支援だ。デジタルガレージ代表取締役の林郁氏は「当社はシリコンバレーなどの有力企業に投資し、業務提携により日本などにサービスを展開する、という体制でインキュベーションを進めてきた。だが今までの体制では、日本固有の環境に合わせた開発が後回しになる、国や地域ごとに開発の優先順位が変わるといった問題があった」と背景を説明する。今後は、日本を含む各地域でのサービス展開に当たってボトルネックになる部分を、New Contextの技術陣がアジャイル開発手法に基づいてバックアップしていく。

 New Contextのもう一つの役割は、グローバル市場への進出を狙う日本のスタートアップ企業のサポートだ。デジタルガレージ取締役でありMITメディアラボ所長を務める伊藤穣一氏は「アジャイル開発の手法を取り入れることで、短期間でサービスをリリースし、ユーザーのフィードバックを基に素早く修正できる。だが、実際にそれができる日本のスタートアップ企業は思いのほか少ない」と指摘する。往々にして経験の少ないエンジニアがシステムを組んでいるために、会社の成長に合わせてスケールアップさせるのが難しいのだ、と同氏は言う。

 そこで、早期段階から開発効率の高いシステムを作れるように、New Contextの技術陣が“先生役”としてスタートアップ企業の開発現場に加わる。例えば、アジャイル開発の手法に基づくプロジェクトマネジメントのあり方やプログラミング技術を指南したり、実際にプロジェクトメンバーに入って開発を支援する。