写真1●米アップグルーブズの柴田尚樹氏
写真1●米アップグルーブズの柴田尚樹氏
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 「ある問題を解決するための情熱を持ち続けられるか」。これは米国で起業し、シリコンバレーを拠点に活動している柴田尚樹氏(写真1、関連記事:「世界を狙うならシリコンバレー」- AppGrooves)が、12月上旬に来日した際の講演で語った起業家向けメッセージである。講演は、起業家育成プロジェクト「Open Network Lab(Onlab=オンラボ)」を運営するデジタルガレージが、既に起業している人やこれから起業を目指している人向けに企画したものだ。

 来日時の講演で同氏は、「なぜ起業するのか」「どうやって起業するか」「会社を作った後、何をするか」の3テーマについて語った。

 「なぜ起業するのか」という問いに対するシリコンバレー関係者の答えは、とてもシンプルだという。柴田氏によれば、それは世の中を良くすること(make the world a better place)。「自分の会社がなかった場合に比べて、“ちょっとでも良い社会”にするために事業をする。シリコンバレーでは、みんな言っている」(柴田氏)という。

 「どうやって」に関する答えについても、シリコンバレー流がある。それは、まず身の回りの問題点を見つけること。次に、それを自分の技術で直すことだという。「大学を出て起業する人は、社会人経験がなくても、この問題意識が明確だから起業できる」と柴田氏は分析する。そのうえで、「当初の問題点を変えてはいけない。変えるなら別の会社でやるべき。その代わり、問題解決のためのソリューションは変えてもいい」と柴田氏は言う。そのソリューションについては、競争を勝ち抜くために「自分が他人よりも上手に解ける必要がある」(柴田氏)。

写真2●好みのアプリを探してくれるAppGrooves
写真2●好みのアプリを探してくれるAppGrooves
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 柴田氏の場合には、自分が解きたい問題は「たくさんのアプリの中から、自分が欲しいものを探すこと」であり、自分しかできないソリューションはEC(電子商取引)業界の経験であり、大学での研究実績だった。そこから生まれたのが、社名にもなっている「AppGrooves写真2)」である。

 一方、俗に言われているビジネスプランの作成はあまり重要視されず、柴田氏自身の場合もアプリ作成後、しばらくの間はプレゼンテーション用の資料があるわけではなく、手書きメモだけだったという。

 出資に至るエピソードもシリコンバレーらしい。アプリを完成した柴田氏は、スタンフォード大学があるパロアルト市のカフェで米500スタートアップス代表のデイブ・マクラー氏に早朝に会うことになり、15分ほどのピッチ(プレゼン)をしたところ、その場で「投資する」と言われたという。続けて「弁護士は誰か」と聞かれ、iPhoneで弁護士宛てのメールを書き始めるなど、即断即決に驚いたと振り返った。マクラー氏は1年間で100社以上に投資するので、2営業日に1件投資するペースとなる。そこでこうした短時間での決断が必要になるというわけだ。

 「会社を作った後」で語った内容は、自らのアプリのアップデートが中心。AppGroovesでは市場の要求に応えるため、2週間に1度のペースでアップデートしているという。「それ以上かかっていたのでは遅すぎる」(柴田氏)。アプリを登録しているApp Store審査が通常1週間くらいかかるので、1週間で開発する必要があるとした。スピードへの対応策としては「優秀な人を採用する」「クラウドをフル活用する」を挙げた。「できない人を入れると遅くなる。クラウドを使えば、5分でサーバーを立ち上げられる」(柴田氏)。

 講演のまとめとして柴田氏は、「失敗するのは当たり前なので、早く安く直せるようにしてほしい」と語った。Webサービスなら毎日、アプリなら2週間に1度は更新できる体制を構築すべきだとする。

 柴田氏への質疑応答は、「ビザはどうやって取得できるのか」「解決すべき問題を見つけるまでにどれくらい時間がかかったか」「弁護士はどうやって見つけたのか」「自己資金や株式保有はどうなっているのか」「どのような基準で社員を採用するのか」といった実践的な質問が相次いだ。柴田氏は自らの経験に基づき、すべての質問に答えていった。