「DVDの対象機器への追加当時、議論が不十分だった」

 そうした前提の下、判決文ではDVDを特定機器に追加した2000年当時の検討過程を参照している。ここでは、「デジタル放送波がそのまま録画機器に取り込まれ、著作権保護技術の情報などさまざまなデジタル情報が組み込まれる場合にこの要件がどのように解されるかについての議論がされないままであったし、本格標準放送となるデジタル放送の標本化周波数についての議論もされないままであって、デジタル放送の規格がDVD録画規格とどう対応するのかの議論もされていなかった」と指摘している。このことからDVDが特定機器に指定された当時は「デジタル放送をDVD録画することは念頭に置かれなかったものであり、3号がデジタル放送のDVD録画を対象としたものと認めることはできない」との判断を示した。

 さらに判決文は、デジタル放送とアナログ放送の違いにも触れた。「テレビ放送の複製権侵害の態様は一律ではなく、その中でもアナログ放送とデジタル放送とで質的に異なる様相を示す」と指摘している。著作権保護技術によるコピー制限、タイムシフトやプレースシフトといった視聴スタイルの普及、テレビ番組がネットで違法配信されていることなど、録画をめぐる実態が大きく変わっている一方、「デジタル放送の実態とデジタル時代におけるDVD録画の実態の下において、デジタル放送が私的録画補償金制度でどのように位置づけられるのかについて、第1条第2項第3号制定時の審議で議論されたとは認められないし、当時の審議録には、録画源についての説明すらない」と、デジタル放送からの録画を対象とするか否かの前提となる議論が不十分であったとする。

「アナデジ変換は、2000年当時大勢を占めていたアナログ放送に対するもの」

 さらに、「アナログデジタル変換が行われた」という文言が盛り込まれた経緯について、「『アナログデジタル変換が行われた』が要件として規定されたということは、著作権法施行令第1条第2項第3号についてみれば、この規定追加時に実態として念頭に置かれていた録画源である放送波(3号制定時において大勢を占めていた放送波)に対して『アナログデジタル変換が行われた』ことが必要であるということである」と指摘。このため、デジタルチューナーのみのDVDレコーダーについては「当該機器においてアナログ放送をデジタル録画するためにアナログデジタル変換が行われないことから、3号の規定の文言の実質的解釈としては、3号該当性が否定されることになる」との見解を示した。

 そして、「一律に本来の義務者でない製造業者等が協力義務を負うものとされる録画補償金の範囲の解釈に当てはめるに際しては、特にテレビ番組を録画対象とするDVD録画機器の特定機器性判断については、客観的かつ一義的に明確でないときには厳格であるべきである」として、限定的に解釈すべきとした。その上で、「客観的かつ一義的に明確でないながらも規定されている『アナログデジタル変換が行われた』との要件を、解釈し得る最小限の範囲で当てはめるならば、3号が追加された当時における録画源としての実態であって製造業者を含む大方の合意が得られた録画源であるアナログ放送から離れ、デジタル放送のみを録画源とするDVD録画機器が特定機器に該当すると解するのは困難といわざるを得ない」として、アナログ非チューナー非搭載のDVDレコーダーを対象に含めるべきではないと結論づけている。