日経BPが主催するイベント「スマートフォン&タブレット2011冬」では2011年12月14日、ベンチャー・キャピタリストやベンチャー支援企業の中心人物を招き、スマートフォン分野のスタートアップ企業の動向についてのパネルディスカッションを実施した。

写真1●インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの小林雅氏
写真1●インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの小林雅氏
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 登壇者の1人はインフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの小林雅氏(写真1)。小林氏はコンサルティング会社勤務後の2001年にエイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)に入社。以来10年間、ネット分野をターゲットとしたベンチャーキャピタルの仕事を続けている。インフィニティ・ベンチャーズLLPでは、ソーシャルアプリの「サンシャイン牧場」を開発するRekoo JapanやUstream、グルーポン・ジャパンなど著名なネット企業に投資している。

写真2●Open Network Lab(オープン・ネットワーク・ラボ)社長の安田幹弘氏
写真2●Open Network Lab(オープン・ネットワーク・ラボ)社長の安田幹弘氏
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 もう1人はOpen Network Lab(オープン・ネットワーク・ラボ)社長の安田幹弘氏(写真2)。安田氏は日本におけるベンチャー支援では先駆けとも言えるデジタルガレージの取締役でもある。Open Network Labは2010年4月から事業を開始し、同年7月からベンチャー支援のプログラムを通算4回実施している。プログラムを“卒業”した企業としては、ソーシャルギフト事業のgiftee(ギフティー)などがある。

 2011年の総括として、小林氏はスマートフォン関連のスタートアップが急速に増えてきたことを挙げる。「感触としては、200社くらいがぼこぼこっと出てきた感じ」(小林氏)。特に多いのがゲームやコミュニケーション分野のサービスを扱う企業だという。「専用ゲーム機をスマートフォンに置き換える動きが活発化しており、スマートフォン関係のゲームで伸びている会社が目立つ。また、もともとスマートフォンは通信と親和性が高いことがあり、コミュニケーション分野のサービスを扱う会社やサービスが面白い」と語る。

 また、小林氏が名指しで「興味深い」として挙げたのが、大学生向けの時間割共有サービスを提供するLabit(ラビット)。社長の鶴田浩之氏は20歳の大学生。「この世代の人たちが前に出てきたのが、今年の注目すべき流れの1つ」(小林氏)。また小林氏はLabitについて「サービスのアイデア自体は比較的誰でも思いつけるもの。だが、とにかく考えながらサービスを作ってリリースする、というスピード感に見習うべきところがたくさんある」と評価する。

シリコンバレーで日本のスタートアップが認められつつある

 安田氏は「今年、シリコンバレーなど海外のスタートアップ企業が、日本を訪れる頻度が上がった」と語る。「毎週のように海外の投資家やスタートアップが日本のスタートアップ企業を見学しにくる雰囲気だ」(安田氏)。

 小林氏も指摘したように、日本国内ではスタートアップ企業のコミュニティが急速に形成されつつある。これに加えて、グリーやディー・エヌ・エー(DeNA)などの成功が、海外企業からの注目度を高める要因になっているという。

 「シリコンバレーで日本のスタートアップが少しずつ認められてきたため、シリコンバレーと日本の距離が近づきつつある。それが人の交流という現象として現れてきた。これは2011年中の特筆すべき動きの1つだ。スタートアップ企業でグローバルに活躍したい人にとっては、良い兆しなのではないか」(安田氏)。

 伸びるスタートアップ企業を見分けるポイントについて、小林氏は「良いチームがいるかどうか」と語る。「経験豊富なリーダーがいるチームは、サービスのリリーススケジュールを守る。残念ながら多くのスタートアップはスケジュールが守れず、ずるずるとサービスインを遅らせる。これではビジネスチャンスを失うばかりだ」と小林氏は指摘する。

 安田氏はユーザーに支持されるサービスを開発するために、最近の起業に見られる潮流「リーンスタートアップ」の要素を取り入れるべきだと述べる。「とにかく資金をかけずに最小限の体制で小さくスタートさせて、ユーザーの声を聞きながら方向修正する。場合によっては大きく中身を変えてしまう。こうしてサービスの中身を検証しつつ、ユーザーの支持を受けられそうだとなった時に、資金を入れて大きく育てる。こうした開発スタイルが今後のネット分野の主流になるのではないか」(安田氏)。

 また大企業と組むことによって、スタートアップの可能性が広がることも指摘した。例えばgifteeは「無印良品」を展開する良品計画と組んで、TwitterやFacebookなどのソーシャルIDを使って友人にプレゼントができるサービスを展開しているという。安田氏は「有力なスタートアップと人気ブランドを持つ大企業が組むことで、スタートアップのサービスの幅が広がり、より多くのユーザーが利益を享受できるようになる。今、このようなコラボレーションが切望されている」と語る。

 大企業という話題に沿って小林氏はKDDIの名前を挙げ、「KDDIはスタートアップとの付き合い方が非常にうまい」と評価する。KDDIは2006年にグリーに投資した。その後のグリーの成長ぶりは言うまでもない。「KDDIの(スタートアップとの提携を扱う)チームの意思決定プロセスは迅速。スマートフォンやスタートアップ隆盛の時代において、大企業にはこのようなスタイルを取り入れるべきなのではないか」(小林氏)。