日経ビジネスが2011年12月1日に報じた「ドコモ、来年夏にiPhone参入」のニュースが記憶に新しいところだが、携帯電話業界にとって2011年末は、来年の変化を予感させる重要な出来事が多々起きている。米アマゾン・ドット・コムが11月に米国で投入した「Kindle Fire」もその一つだろう。通信・インターネット・ITセクターを担当しているBNPパリバ証券 株式調査部のシニア・アナリストである山科拓氏に今後の注目点を聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


 NTTドコモがiPhoneを扱うという報道が出たが、仮にそうなるとすれば、NTTドコモの中期戦略「中期ビジョン2015」(関連記事:NTTドコモの4-9月期は減収減益も好調に推移、新周波数帯は「900MHz帯も取りに行く」NTTドコモの該当ページ)の中で、iPhoneがどう位置付けられるのかがポイントだろう。もちろん、それ以前にNTTドコモの純増シェアであるとか解約率であるとかMNP(番号ポータビリティ)の転出であるとか、これらの数字が悪化し続けた際にどう対応するのかという議論も視点としては必要だとは思う。

 私の見立てとしては、NTTドコモがiPhoneを導入するにしても、(料金などの面で)優遇措置はおそらくとらないだろう。米アップルとの関係において話題になるのは台数のコミットメントだが、仮にNTTドコモが扱うのだとすればなるべく低い数ということになると見ている。

 NTTドコモの中期戦略との兼ね合いで見ると、同社は元々「ケータイデータお預かりサービス」や「iコンシェル」という形でクラウドに親和性の高いサービスを手掛けている。いずれ本格的なクラウドサービスに取り組むだろうと見ていたが、これを中期戦略で打ち出してきた(編集部注:中期ビジョン2015では、ドコモのクラウドとして「パーソナル」「ビジネス」「ネットワーク」の三つを打ち出している)。NTTドコモはモバイルを核とする「総合サービス企業」になることを掲げているが、これはアップルの掲げるサービスと正面からバッティングする。

 NTTドコモはNTTドコモとして完結したサービスがあると思う。そこにiPhoneは取り込めないはず。そのため、NTTドコモがアップルの製品をメインに据えることはないだろう。ただ「需要があるから取り扱います」ということは当然あると思う。

 報道にもあったiPhone/iPadのLTE化というのは規定路線だと思っている。iPhone 5にはどのようなイノベーションがあり得るか、どのような機能を盛り込んでくるか、ということを考えると、通信回線としては特に米国市場を考えた場合はLTEになってしかるべきであり、当然ロードマップにはあるだろう。

 アップルは各市場で2桁成長を維持しなければならない、という考え方があるとすれば、日本市場においてはアップルとしてもNTTドコモから販売することを考えなければならないと思う。そしてiPhoneの販売では後発になってしまうNTTドコモが、ソフトバンクモバイルやKDDIと差別化できる主なポイントとしてLTE対応が挙げられる。

 そもそも現状、LTEの商用サービスを開始している携帯電話事業者はグローバルで見てもあまり多くない。当然アップルはその点を意識しているのではないかと思う。アップルのクラウドサービスに対するエクスペリエンスをきちんと体感でき、かつ台数成長という点を考えると、アップルとNTTドコモが交渉しているというのは真っ当な見方だろう。