2011年12月1日、日経ビジネスが報じた「ドコモ、来年夏にiPhone参入」について識者はどう受けとめたのだろうか。NTTドコモはこのニュースに関して、現時点で具体的な事実はないといった趣旨のコメントをしているが(関連記事)、仮にドコモが今後iPhoneを発売した場合、その影響はアプリ開発者にも及ぶはずだ。大手携帯電話事業者3社がiPhoneを発売している米国のシリコンバレーを拠点にアプリを開発している米アップグルーブズの柴田尚樹氏に、アプリ開発者としての注目ポイントを聞いた。

(聞き手は菊池 隆裕=ITpro


 グローバル市場を対象にアプリを販売している私からみると、今回の報道が事実だとすれば、日本の市場と世界の市場の同質化が進むと考えている。これは、ユーザーの「アプリの購買力」という観点において、どの市場でもiPhoneの方がAndroidよりも優位になるということである。現状では、世界中の多くの地域で、リッチな購買層がiPhoneを購入、そこに届かない層がAndroid端末を買っている。日本では逆転現象が起こっていたが、それが解消するかもしれない。

 私が開発した「AppGrooves」は、お薦めのiPhoneアプリを探し出してくれるiPhoneアプリである。実は、このアプリのAndroid版の開発も構想にあって、市場投入するなら、まず日本だと考えていた。というのは、日本市場では、Androidユーザーの方が、アプリにもっとお金を落としてくれる潜在的な可能性があり、開発者も含めてエコシステムが成り立ちうると考えていたからである。それは、最大シェアを持つNTTドコモが、Android端末を中心に据えているためにほかならない。さらに、Androidユーザーで、Googleアカウントをクレジットカードとひも付けている割合は小さいので、それが不利な要素になっているという分析がある。それも日本ではキャリア課金が広がりつつあるので、そこにも期待した。

 しかし、今回の「ドコモがiPhone参入」の報道を見ると、Android版アプリの開発へのリソース配分は慎重にならざるを得ない。通常、アップルは契約した通信事業者に対して厳しいノルマを課すとされている。そうなると、ドコモの販売戦略もiPhoneが中心になるわけで、端末の販売シェアは大きく変わり、日本のiPhoneユーザーのアプリ購買潜在力も上がっていくことが予想できるからだ。

 スマートフォンの競争において、(販売台数ベースという意味ではなく)開発者まで含めた全体のエコシステムの充実度という意味では、当面はiPhone優位が続くのではないか。ただし、アップルに比べると、グーグルの経営者と社員は若い。グーグルが10~20年先の市場も視野に入れているとすれば、長期的には勝機があるのかもしれない。いずれにしても、開発者の収益が上がりやすいエコシステムが構築されないことには、Androidアプリを開発しようという機運は高まらないだろう(談)。