富士通グループは、大和ハウス工業の独SAP製ERP(統合基幹業務)パッケージを使った基幹システム再構築プロジェクトに新しい管理手法を適用し、約11カ月かかる予定だった実装工程とテスト工程を約3割短縮したことを明らかにした。今回導入したのはTOC(制約条件の理論)をベースにしたプロジェクトマネジメント手法であるCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)。今回の成果を、大和ハウス工業が11月2~4日に米国で開催されたCCPMの成功事例発表会「PROJECT FLOW」で発表したほか、富士通グループも11月29日からインドネシアのバタム島で開催されるプロジェクトマネジメント学会「ProMAC Symposium 2011」で発表する予定。

 今回、CCPMは財務や販売管理などのSAPモジュール導入プロジェクトに適用した。これにより、実装工程(パラメータ設定やアドオンソフトのコーディングなど)が約4.5か月(90日)の想定に対して約3カ月(65日)と28%短縮できたうえ、テスト工程も144日の見積もりに対して107日と26%短縮できた。両工程で2011年2月から12月までかかる予定だったが、9月までに終えられた。CCPMは土木工事や精密機器の設計工程などで国内でも徐々に適用事例が増えているが(関連記事1関連記事2関連記事3)、ERP導入プロジェクトへの本格適用はまだ珍しい。

 CCPMとは、TOCの提唱者である故エリヤフ・ゴールドラット氏が考案したプロジェクト管理手法。基本的な骨子は(1)個々のタスクで「安全余裕」を取り除いた短い工期を設定、(2)各タスクの短縮分は「バッファ」として集約管理、(3)遅れたタスクについてはタスクの優先順位を明確にしながら、問題解決やリソース(主に人員)再調整を迅速に行う、というもの。

 このように短い工期を設定すると、通常は現場へのプレッシャーが過大になると考えられる。だが、もともとタイトな日程を設定しているという認識の下、現場は僅かな個別タスクの遅れについてでも積極的にマネジャー層に報告・相談を上げてくるようになる。その結果、マネジャー層はプロジェクト全体の問題を可視化でき、バッファへの食い込み状況をにらみつつ、冷静にリソースの再調整などを行えるようになるという。

 富士通グループ側のプロジェクトリーダーを務める富士通関西システムズ ビジネスソリューション本部SAPソリューション部担当部長の中江功氏は、マネジメントの変化をこう語る。「工期を短く設定したため、プロジェクトの遅延につながりそうな情報を、メンバーがどんどん報告し共有してくれるようになった。このため、問題解決のスピードが速まった」。中江担当部長によると今回のプロジェクト規模は富士通側でおよそ2000人月になる見込み。

 テスト工程を終えて10月からは運用定着化フェーズを進めている。大和ハウス工業側のプロジェクトリーダーを務める経営管理本部(管理部門)経理部(グループ経営基盤システムプロジェクト)次長の松山竜蔵氏は「これまで期間を短縮した分、運用定着化フェーズに十分な期間を充てられるようになった。新システムに切り替えた際のショックを和らげられる」とその効果を説明する。

 2012年3月まで運用定着化に時間をかけ、2012年4月からの稼働を予定している。

■変更履歴
第2段落でテスト工程の短縮効果について当初「102日と29%短縮できた」と記載していましたが、富士通側の申し入れにより「107日と26%短縮できた」に訂正します。本文は修正済みです。[2012/2/16 17:00]