「強いリーダーを育成するアイデアを示すことで、日本を少しでも良くしたい」。東京大学の宮田秀明教授、慶應義塾大学の花田光世教授、IT分野のプロジェクトマネジメントで著名な富永章氏の3人は、このような問題意識をあらためて示した。

 一般社団法人強いリーダー育成研究会は2011年10月27日、東京大学で設立記念シンポジウム「強いリーダーの輩出を目指して」を開催。宮田教授は船舶設計や東北復興プロジェクトのリーダー経験、花田教授は企業経営と人事制度の研究、“ミスターPM”の富永氏はプロジェクトマネジメントというそれぞれの観点から、リーダーに必要な素質や考え方、そしてリーダーを育成する方法について、アイデアや論点を提示した。

新しいビジョンとコンセプトづくりがリーダーの仕事

写真1●東京大学の宮田秀明教授
写真1●東京大学の宮田秀明教授
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 宮田教授の講演テーマは「リーダーシップとマネジメント力」。宮田教授は現代の船舶設計の世界では第一線の研究者。過去には国際的なヨット競技「アメリカズ・カップ」の日本チームにおいてテクニカルディレクターを務めた。船舶工学の研究成果で6月には恩賜賞・日本学士院賞を受賞している。

 「リーダーはモノマネや二番煎じに終わらない、新しいビジョンやコンセプトを示すことが大切だ」と宮田教授は強調する。「過去に例のない新しいことをやろうとすると、絶対そんなやり方ではうまくいかないとか、無理だとか、周囲からいろいろと言われる。リーダーとしては辛いが、ここで折れてはダメ。勝利と目標達成を信じて、チームを率いることがリーダーに求められる」という。

 ビジョンやコンセプトづくりでは、ビジョン策定から目標設定、コンセプト固め、そしてアーキテクチャ設計といった工程を1つの流れとして捉え、リーダー以下の精鋭チームで実施すべきと指摘する。「過去の経験上、ビジョン、コンセプト、デザイン(全体設計)、そしてアーキテクチャに至る流れをバラバラに実施すると、たいがい良いものはできない」という。

 宮田教授は現在、被災した東北地方の復興を支援するための組織として、「東日本環境防災未来都市研究会」を設立。復興支援に向けたプロジェクトを進めている(日経ビジネスオンラインの連載コラム「経営の設計学」参照)。11月には同研究会の下で、社会システムデザインという企業を設立。これらの組織を通じて、「環境防災、エネルギーの安全保障、産業振興といった複合的な条件を満たす、より良い東北復興に向けてのコンセプトを打ち出していく」という。「このような組織を設立したのは、(一貫した流れに沿って)きちんとしたコンセプトを打ち出せるようにするためだ」(宮田教授)。

 また、リーダーの育成には、リーダーが成長できるような場の存在が大切だとする。過去のアメリカズ・カップでは、学生や助手を積極的に参画させた。また現在も東大の宮田教授の研究室では、産学連携のプロジェクトに学生を積極的に参画させているという。「人はプロジェクトで育つ。また、人は一人でできることなど限られている。だからこそ、メンバー全員が成長できるような場づくりが、マネジャの大切な仕事となる」(宮田教授)。

 メンバーに対する尊重と信頼の気持ちも欠かせないと付け加える。「人は役割の大きさに応じて他者を評価してしまいがちだが、小さい役割でも必要だから、その人はそこにいる。メンバーそれぞれに尊敬と信頼の気持ちを持つことが、リーダーには欠かせない。こうした人間的なつながりがチームの強さを下支えする」と宮田教授は語る。