日本公認会計士協会(JICPA)は2011年10月18日、IT委員会研究報告第40号「ITに対応した監査手続事例~事例で学ぶよくわかるITに対応した監査~」を公表した。ITに関して十分な知識を持っていない公認会計士向けに、財務諸表監査時に監査人が実施するリスクの評価および対応の留意点についてケーススタディー形式でまとめた文書だ。

 「IT業務処理統制の不正を発見できなかった」「ITベンダーがクラウドサービスで売り上げを早期計上した」「ネットビジネス会社の架空売り上げを発見できなかった」といった事例を紹介。JICPAのWebサイトから無償で入手できる。

 IT委員会研究報告第40号では、五つの事例を取り上げている。(1)事例の概要、(2)実施した監査、(3)後日判明した事項、(4)発見につながる着眼点、(5)改善に向けて、の五つのポイントからそれぞれの事例を分析していることが特徴だ。図版を用いて情報システムや、ITを利用したビジネスモデルについて解説している。合計で20ページの文書となっている。

 五つの事例は、「製品売り上げの早期計上と完成工事高の架空計上」「仕訳データの操作」「外部倉庫における滞留在庫等に対する評価損の未計上」「ITサービス(クラウドコンピューティング)に係る早期売り上げの計上」「架空売り上げの計上」である。最初の三つの事例は情報システムを利用した際の業務処理に対する監査人に理解不足、ほかの二つはITに関連するビジネスに対する監査人の理解不足に起因する事例だ。

 「仕訳データ操作」では、入力と承認の両方の権限を持った担当者が財務会計システムや販売システム、購買システムを操作して架空売り上げを計上していたケースを取り上げている。「仕訳データを適切に分析することで、不正が比較的容易に発見できた例」としている。

 「ITサービス(クラウドコンピューティング)に係る早期売り上げの計上」は、ITベンダーのデータセンターの稼働延期によってクラウドサービスの提供が遅れたにもかかわらず、売り上げを計上していた事例だ。早期計上を見逃した理由について、「クラウドコンピューティングという新しい形態のサービスのため、受託開発の検収書がデータセンターの検収書でもあるとの説明を受け入れたことが挙げられる」と解説している。