「スマートフォンやタブレットの登場は、パソコンの登場に匹敵するクライアントの革新になる」。2011年10月12~14日に東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2011」展示会の基調講演として、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの携帯電話大手3社によるパネル討論会を開催した。

 NTTドコモの山田広之 法人事業部法人ビジネス戦略部営業企画担当部長(写真1)は「これまでパソコンを使っていた業務がタブレットやスマホに代わるほか、電子書籍などの閲覧系の新たな使い型が登場してきている」と切り出し、同社が手掛ける企業の導入事例を紹介した。

写真1●NTTドコモの山田広之 法人事業部法人ビジネス戦略部営業企画担当部長
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 一つめはゴルフ場の事例だ。Androidタブレット端末「Galaxy Tab」を使って、カートの位置情報をGPSで把握できるようにした。タブレットは自然災害時の緊急音声連絡用にも使う。従来はGPS端末とトランシーバーの二つが必要だったが、1台の端末に集約できたという。

 二つめはブライダルギフト販売企業への導入事例。営業担当者の書類をタブレット端末にまとめた。「それまでは膨大なカタログ資料を持ち歩いていたうえ、営業日報を書くために会社に戻る必要があった」(山田担当部長)。

 三つめは運送業の事例だ。トラックの運行情報や車庫の状況の管理にタブレット端末を使うようにした。「管理職が現場の管理を外出先からでもできるようになった」(山田担当部長)という。

 最後に賃貸物件管理業の事例。賃貸物件の現況や破損状況をサーバーで管理して、タブレット端末から確認できるようにした。また、現況や破損状況に関する情報入力手段として、タブレット端末で写真を撮影して送れるようにした。導入企業からは「会社に戻る必要がなく、タブレット一つで業務ができるようになった」と評価されているという。

 スマホ、タブレットの利用を拡大させる動きとして、ネットワークの進化にも触れた。「LTEサービス『Xi(クロッシィ)』は高速、大容量、低遅延という特徴がある。法人ユーザーにとっては、低遅延が大きなメリットになると考えている。これまでは端末側で処理しなければならなかったことを、ネットワーク側で処理しても遅延を感じずに活用できる」(山田担当部長)。

 Xiを活用するためのタブレットとして10月以降、韓国サムスン電子製の「GALAXY Tab 10.1 LTE SC-01D」、富士通製の「ARROWS Tab LTE F-01D」を順次発売する。

Androidのマルウエア対策も万全

 KDDIの原田圭悟ソリューション事業本部ソリューション推進本部スマートソリューション部長(写真2)は「使い方とセキュリティ、コストがスマホやタブレットの課題」として、それを解決する手段について言及した。

写真2●KDDIの原田圭悟ソリューション事業本部ソリューション推進本部スマートソリューション部長
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 使い方とコストについては、「業務の効率化に加えて、レスポンス向上や組織力アップによる顧客満足度の向上に目を向けるべき」(原田部長)とした。

 例えば、同社が手掛けるスマホ関連ソリューションの4割がグループウエアのスマホ対応だという。「業務効率化という面では、グループウエアの活用により客先に直行でき、残業も減らせる。ただし効果はこれだけではなく、顧客へのレスポンスを向上させて顧客満足度を高められる」(同)という。また、比較的大きな画面とタッチパネル操作により、メールの添付ファイルを読みやすくなる。社内コミュニケーションの活性化で組織力も高まる。

 スマホの導入そのものには1台当たり月1万円程度かかるが、業務効率化と営業収益の向上を見込めば効果は大きいと主張した。

 こうしたグループウエアの導入を簡単に実現する手段として、同社はクラウドサービス「CACHATTO for au」を提供する。社内のグループウエアサーバーはそのままで、スマホからグループウエアを利用できる。KDDIではソリューション部門がAndroidスマホ「IS03」とCACHATTO for auを利用しており、業務を迅速化できる成果を出せているという。

 セキュリティについては、携帯電話とは異なる点に注目すべきとした。「従来の携帯電話では紛失と盗難にフォーカスが当たっていたが、スマホではマルウエアの存在が確認されている」(原田部長)。この問題に対し、KDDIはセキュリティサービス「KDDI 3LM security」を用意しているとアピールした。

 KDDI 3LM securityはAndroidの管理権限をユーザーから管理者に委譲させ、アプリケーションのインストール制限やアプリのアクセス先データの制限、重要アプリの削除の禁止などを管理者側で設定できるサービスだ。

世界の大手IT企業もモバイルにシフト

 ソフトバンクモバイルの安川新一郎 商品統括プロダクト・マーケティング本部副本部長(写真3)は「スマホとタブレットが企業で使うクライアントの主役になっていく」と予想。iPadやiPhoneをメインのクライアントとして利用する事例を紹介した。

写真3●ソフトバンクモバイルの安川新一郎 商品統括プロダクト・マーケティング本部副本部長
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 一つめは10月に運用トライアルを開始する全日空の事例だ。同社は客室乗務員6000人にiPadを導入する計画だ。「客室乗務員は数百枚に及ぶ紙のマニュアルを持ち歩いていた。これをiPad1台に入れられるので、大変喜んでもらえている」(安川副本部長)とした。

 二つめはガリバーインターナショナルの事例で、営業担当者が携行していたノートパソコンをiPadに切り替えた。書類もiPadに入れた。「在庫情報をiPadで見られるようにするなど、本格的に脱PCを進めている」(安川副本部長)という、最先端事例になっている。

 三つめは佐賀県庁における医療での活用だ。救急車での緊急搬送時にiPadで搬送先の状況を一覧できるようにした。「従来は携帯電話で1件ずつ電話で受け入れを確認していた。iPadの導入で搬送時間を短縮できたし、システム刷新も同時に実施して年間4000万円のコスト削減になった」(安川副本部長)。

 最後に紹介した事例は東急ハンズがiPhoneを活用して“持ち運べるPOS端末”を作ったというもの。iPhoneにカードリーダーを接続して、クレジットカードによる決済をその場でできるようにした。

 こうしたモバイルが主役になる潮流は世界的なものだという。安川副本部長は「Googleのエリック・シュミット会長やSAPの社長が『モバイルファースト』と言っている。ITで一番知恵を使う人たちはモバイルアプリの開発に携わっている。SAPはSybaseを買収してから一気にモバイルにシフトして、モバイルアプリでトップになると宣言した」と説明した。

 ただし、現時点ではスマホやタブレットは主流になるまでは至っていない。「トラフィックで見るとスマホとタブレットの合計で6.8%に過ぎない。今後2~3年で一気にモバイルへのシフトが進む」(安川副本部長)と予想する。

導入すると思わぬ成果が上がる

 携帯3社の担当者に、モデレーターの大谷晃司ITpro副編集長は「スマホやタブレットだからこそできる、新しい使い方はどのようなものがあるのか」と水を向けた。

 NTTドコモの山田担当部長は「我々の導入事例として、徳島県上勝町で葉っぱビジネスを展開する『いろどり』の使い方がユニークだ。いろどりでは高齢者の方が料亭向けに販売する装飾用の葉っぱを集める。その方々に向けて簡単に使えるAndroidアプリを作って、40台のタブレットを導入してもらった。現場である山の中でも葉っぱの受注が分かるので、機会損失が少なくなった」と答えた。

 アプリの簡単さは様々な可能性を秘めている。ソフトバンクモバイルの安川副本部長は「ナレッジの共有をホワイトカラー以外でも進められる。これまでIT武装していなかったところに、スマホとタブレットでITが入る」と期待する。

 スマホやタブレットでは、導入後に判明する副次的な効果も大きいという。「デジタルハリウッドは教科書の多さを嫌い、ペーパーレス化を目的にiPadを導入した。すると予習率や予習時間、理解度が上がるといった副次的な効果があった」(安川副本部長)。

 KDDIの原田部長も同様の意見で「対面営業でタブレットを導入した企業では、顧客との距離が近づく効果が大きいと評価された」という。従来は客に紙の資料を渡して説明していたが、「紙を渡すと顧客との距離ができてしまう」(同)という問題があった。