写真1●IPアドレス枯渇対策ワークショップのQ&Aセッション
写真1●IPアドレス枯渇対策ワークショップのQ&Aセッション
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●JPNIC インターネット推進部 部長の前村昌紀氏
写真2●JPNIC インターネット推進部 部長の前村昌紀氏
[画像のクリックで拡大表示]
写真3●テレコムサービス協会 政策委員会 委員長の今井恵一氏
写真3●テレコムサービス協会 政策委員会 委員長の今井恵一氏
[画像のクリックで拡大表示]

 東京国際展示場で開催中のITpro EXPO 2011では、「IPアドレス枯渇対策ワークショップ」と題してIPv4アドレス枯渇対策に関するパネル展示と講演を行っている(写真1)。2011年10月13日には、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースが来場者からの基本的な質問に答えるセッション「今さら聞けないQ&Aコーナー:基礎編」が行われた。回答者はタスクフォースのメンバーで、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)インターネット推進部 部長の前村昌紀氏(写真2)と、テレコムサービス協会 政策委員会 委員長の今井恵一氏(写真3)である。司会は日経コミュニケーション/日経NETWORKの加藤雅浩副編集長が担当した。

 セッション冒頭では運営側であらかじめ用意した「IPv4グローバルアドレスが枯渇すると今のインターネットは使えなくなるの?」「IPv4とIPv6は何が違うの?」といった質問で、基礎知識を説明するところからスタートした。最初の質問について今井氏は「既存のIPv4インターネットはそのまま残るので、使えなくなることはありません」と解説。ただし、今後はIPv4アドレスを新規に割り当てることができない。そのため、新しくプロバイダーを始めたり、データセンターを新設したりしたいという事業者にとってはIPv4アドレスの確保が難しくなる。「中国やインドなど、インターネットの普及率が爆発的に伸びている国では、特に困るでしょう」(今井氏)。

 IPv4とIPv6の違いについては、「まず、IPv4/IPv6は相互接続できないという点を押さえておきましょう」(前村氏)という。そもそもパケットのフォーマットなどが違うまったく違うプロトコルなので、IPv4のネットワークとIPv6のネットワークとの間では、そのままでは通信ができない。ただし機能的には、「エンドユーザーから見ると、IPv4とIPv6でできることにはさほど違いはありません」(今井氏)という。

 一方、ネットワーク管理者にとっては、IPv4よりも潤沢なアドレス空間を使えるため、IPv6の方がアドレスの割り当てや管理が楽になる可能性があるとした。すると会場からは、「IPv4とIPv6はひとつの機器で同時に動かせますか?」という質問が飛び出した。これに対しては、「IPv4とIPv6は相互接続できないと述べましたが、機器は両方のプロトコルに対応することができます」(今井氏)。IPv4/IPv6両方に対応したデュアルスタックの機器でネットワークを構成した場合、物理的には一つのネットワークに、論理的には二つの異なるプロトコルのネットワークが存在することなるわけだ。「ルーター、スイッチだけでなく、パソコンでもデュアルスタックの端末が増えています。Windows 7/Vistaは初期設定でIPv6が有効です」(前村氏)という。

 その後も、会場からはIPv4とIPv6の相互接続に関する質問が続いた。例えば、「IPv4のみに対応したWebサーバーには、IPv6の接続性しか持たないユーザーはアクセスできないの?」といった質問だ。これについては、「基本的にはできません」(今井氏)という。ただ、現状ではIPv6アドレスしか持たないユーザーはほぼ存在しない。今、国内で提供されているIPv6インターネット接続サービスは、IPv4とセットでデュアルスタックの接続環境を提供するケースが多いためだ。IPv6だけのユーザーが出てくるのは、現在プロバイダーが持っているIPv4アドレスの在庫が尽きた後、「IPv6アドレスしか割り当てない」というインターネット接続サービスが登場した時だろう。「特に日本国内では、これはしばらく先のことでしょう」(今井氏)。

 ちなみに、デュアルスタックの端末がデュアルスタックのWebサーバーに接続する場合、IPv4とIPv6どちらを優先するかはOSやアプリケーションによって変わる。「例えばWindows 7/Vistaの場合は、IPv6で先に接続を試みます」(前村氏)という。

 しばらくパソコンの話が中心に続いたが、やがて会場からは家電のIPv6対応についても質問が出てきた。「イーサネットのインタフェースを持っているテレビは珍しくないが、IPv4でしか通信できないのでは?買い替えるしかないのでしょうか?」というのだ。今井氏によると「最新型のネットワーク対応のテレビは、IPv6に対応しているケースが多い」という。ただし、古いテレビの中には対応できないものがある。「一部の製品はファームウエアの更新などでIPv6対応が可能ですが、あまり古い製品ではそれもできません」(今井氏)という。

 そのほか、ゲーム機やデジタルフォトフレームなど、比較的安価な家電はIPv4にしか対応できないものが多い。家電で利用するサービスがデュアルスタックなら問題ないが、将来的にIPv6にしか対応しないサービスが出てきた場合は買い替えが必要になるかもしれない。ただ、「いずれブロードバンドルーターなどに、IPv4とIPv6の変換(トランスレーション)の機能が乗ってくるかもしれません」(今井氏)。そうすれば、古い機器はIPv4のまま、変換機能を介してIPv6サービスに接続できる可能性があるという。

 最後に、加藤副編集長が「私の自宅ではIPv6接続サービスを利用できますか?」という質問を向けたところ、「最近ではKDDIの『auひかり』、NTT東日本/西日本の『フレッツ 光ネクスト』などのアクセス網を利用したインターネット接続サービスが増えています」(今井氏)との回答だった。家庭向けIPv6インターネット接続は、IPv4インターネット接続サービスの無償オプションとして提供するプロバイダーが多い(ただし、プロバイダーによっては専用装置の購入や、数百円の追加料金が必要になるケースもある)。前村氏からは、「自宅にIPv4インターネット接続サービスの契約しかなくても、トンネリングという技術を使えばIPv6インターネット接続を利用できます。本格導入の前に、トンネリングでIPv6を試してみるのもいいかもしれません」という意見もあった。そのほかにも会場からはさまざまな質問が飛び出し、IPv4枯渇とIPv6対応についての関心の高まりを感じさせるセッションだった。