写真●EMCジャパンの山野修社長 撮影:後藤究
写真●EMCジャパンの山野修社長 撮影:後藤究
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 「クラウドとビッグデータが融合することで、ユーザー企業におけるビジネス変革を牽引するビッグチャンスが到来する」。EMCジャパンの山野修社長は2011年10月13日、「ITpro EXPO 2011」の特別講演でビッグデータの可能性をこう述べた(写真)。

 まず山野社長は、データの量や質の観点から、最近のITを取り巻く変化を概観した。「IDCとの共同調査によれば、今後10年で全世界のデータ量は50倍に増える。年率に換算すると毎年48%の増加だ。IT業界全体を見ても、年率50%近い成長をする分野はなかなか見当たらない」。

 山野社長は、データの量だけでなく質も変化していると指摘する。ディスク装置に格納する文字や数値といった業務システムのデータ、いわゆる「ブロック型データ」に比べて、ファイルシステムを使って管理する文書や画像、音声といった「ファイル型データ」が、今後は爆発的に増えるという。「ブロック型データの伸びは年率22%であるのに対して、ファイル型データは年率61%。全体のデータ量に占める各々の割合は、既に2009年時点でファイル型データが上回っている。こうした質の変化が、これまでのデータ量の伸びと異なる点だ」。

 こうしたデータ爆発を引き起こす大きな要因が、一般消費者がITサービスを使って作成するデータの増加である。「これまでのデータ爆発は、製造業の構造解析や3次元CG作成、製薬会社の新薬開発など、企業内で発生してきた。それがネットサービスやソーシャルメディアの普及で、世界中の個人が細かいデータを大量に作成するようになった」。

 データが今後10年で50倍に増える一方で、それを管理するITスタッフの人数は1.5倍にしかならないという。「ここにジレンマが生まれている。米国では、データ分析する『データサイエンティスト』が、150万人足りないとの指摘もある。早急に解決を図るべき問題だ」。

ビッグデータを活用する三つのシナリオ

 データ量の増加の背景にあるのが、クラウドの普及だ。「クラウドとビッグデータは密接な関係にある。個人でもクラウドサービスを使って、スマートフォンからファイルを投稿したり共有したりするのが、今では当たり前になった。クラウドが普及するほど、データ量は爆発的に増える」。

 爆発的に増加し、今までは収集することも処理することも難しかった「ビッグデータ」。これを企業が活用するためのシナリオを、山野社長は三つ挙げた。時々刻々と変わるデータをリアルタイムに処理して「今を描き出す」こと、顧客からの問い合わせや通信状況の変化を関知して「異変を察知する」こと、そしてこれらを基に「近未来を予測する」ことである。

 例えば一つめの「今を描き出す」ことの実例が、ソーシャルメディア上でのクチコミ情報分析だ。Twitterのつぶやきを収集し可視化することで、自社の商品の評判を即座に把握する、といったものである。二つめの「異変を察知する」ことの例は、サイバー攻撃を関知すること。「社内のITインフラからイベントログ、アクセスログ、システム構成のデータをすべて収集し、相関を分析して可視化する、といった手法。ゼロデイ攻撃など、ファイアウォールやウイルス対策ソフトだけでは防ぎづらい攻撃が増える中、セキュリティ企業が注目している」。

 三つめの「近未来を予測する」ことは、ビッグデータの活用法の中でも最も注目を集めている分野だという。「住宅ローンの引き受けリスクについて、個人の所得や職歴だけでなく、住宅価格の傾向や労働市場の傾向、地理的リスクなど多くの変数を組み込んで分析する、といったことだ。ある住宅会社で、ビッグデータを活用することで、審査の期間を30%短縮できた例もある」。

 山野社長は、米ガートナーのレポートを引用して、「ビッグデータはビッグチャンスだ。今後はビッグデータからビジネスチャンスの芽を探し出して、自社を成長へと導くことが、CIO(最高情報責任者)に求められる役割になる」と総括した。