写真●IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース/テレコムサービス協会の今井恵一氏(撮影:後藤究)
写真●IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース/テレコムサービス協会の今井恵一氏(撮影:後藤究)
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 東京国際展示場で開催中のITpro EXPO 2011では、「IPアドレス枯渇対策ワークショップ」と題してIPv4アドレス枯渇対策に関するパネル展示と講演を行っている。イベント中日となる2011年10月13日には、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース/テレコムサービス協会の今井恵一氏(写真)が「アドレス枯渇で変わるインターネット」と題する基調講演でIPv4アドレス枯渇の現状と、IPv6対応への展望を語った。

 今井氏によれば、IPv4グローバルアドレスは階層的に管理されており、世界中のアドレス管理の大元であるIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の中央在庫がなくなったのが2011年2月だという。IANAから割り振りを受けるアジア太平洋地域の地域インターネットレジストリー(RIR)であるAPNICの在庫が枯渇したのが4月だ。APNICは日本の国別インターネットレジストリー(NIR)であるJPNICと在庫を共有しており、両者の枯渇は同時期である。現在は、「NIRから割り振りを受けるプロバイダーなどの在庫がいつなくなるか」――という状況だ。

 今井氏によれば、国内のプロバイダーが現状で持っている在庫にはかなりバラつきがあるという。JPNICでは原則として、一度に割り振るアドレスの量は最大でも「今後1年間に必要と予測される量」である。そのため、普通に考えるとRIR在庫枯渇から約1年後、つまり2012年4月にはプロバイダーの在庫がなくなりそうだ。しかし、「RIR在庫枯渇直前に数百万個単位のアドレスを割り振られた大手プロバイダーもある。こうした大手プロバイダーの枯渇は2012年よりもっと先になるかもしれない」(今井氏)。日本はブロードバンドの普及が進んでおり、今後急増するとは考えにくい。そのため、IPv4アドレスの在庫消費はある程度ゆるやかに進むと考えられる。

 一方で、「中国などアジア太平洋地域のほかの国では、インターネットの需要が爆発的に伸びていることから、2012年の早い時期にはプロバイダーで在庫が枯渇するのではないか」(今井氏)と予測する。今井氏は、特にインドでの枯渇が早いのではないかという。IANAからAPNICへのIPv4アドレス割り振り数を見ると、RIR枯渇の直前の3カ月半で、それ以前の年の1年分の量を割り振っていることがわかった。つまり、駆け込み需要がかなり多かった。ところが、この駆け込み需要の割り振りの内訳を見ると、インドへの割り振りが相対的に少ないため、早期に枯渇すると予測しているという。

 IPv4アドレスの枯渇が進んだため、未使用のアドレスを組織間でやり取りする「IPv4アドレス移転」の制度もできた(関連記事)。組織間の合意があれば、IPv4アドレスの売買も可能だ。ただし、現状ではRIR内での移転しか認められていない。また、「今後、未使用のIPv4アドレスの数が少なくなると、市場原理に基づいてアドレスの値段が上がる可能性がある」(今井氏)。以上を考えあわせると、「移転はグループ会社間などでのやり取りが中心になるのではないか」(今井氏)と、アドレス枯渇の根本的な対策にはならないとの見方を示した。

 そのため、プロバイダーは現状のIPv4を維持しながら、IPv6への対応を進めることになる。「インターネット全体が一挙にIPv6に移行するわけではないので、IPv4のみに対応する既存のWebサイトへの接続性も維持する必要がある。そのため、インターネットはIPv4とIPv6のネットワークが並存するデュアルスタックの状態になる」(今井氏)。プロバイダーの設備面での対応だけでなく、端末やサービス側の対応も進みつつある。例えばWindows 7/Vistaでは、すでに初期設定でIPv6が有効だ。また国内のサービスとしてはKDDIの「auひかり」、NTT東日本/西日本(NTT東西)の「フレッツ 光ネクスト」などのアクセス網を利用したIPv6接続サービスが登場しつつある。特に前者はユーザーが特別な申し込みをしなくても、ブロードバンドルーターのファームウエアをアップデートすることによってIPv6接続が可能になる。ユーザーが意識しなくても、IPv6接続可能な環境は少しずつ広まっているのだ。

 とはいえ、現状ではまだIPv4がインターネットアクセスの多くを占め、IPv6は広く普及しているとはいえない状況だ。今井氏は「では、IPv6はいつ普及するのか」と問いを設定し、「アジア太平洋地域では2012年以降、国内では2013年から2014年ごろ」との予測を述べた。アジア太平洋地域に関しては、すでに述べたようにインドなどインターネットの成長著しい地域で新規にIPv4アドレスを割り当てられなくなるタイミングが、2012年早々と予測されるためである。

 国内の予測に関しては、「NTT東西がBフレッツをフレッツ 光ネクストに巻き取るタイミング」と、「スマートフォンの普及」を根拠に挙げた。NTT東西は2012年度(2013年3月)頃をめどに、Bフレッツ網をフレッツ 光ネクスト網に巻き取る計画を立てている。「この巻き取りのタイミングで現在のBフレッツユーザーの多くが、フレッツ 光ネクストを使ったIPv6インターネット接続サービスに加入することになるのではないか」(今井氏)というわけだ。スマートフォンについては、「2011年から2012年にかけて、多くのユーザーがスマートフォンを購入すると考えられる。その2年後、つまり2013年から2014年くらいには買い替え需要が高まる。この時期、市場に出回るスマートフォンの多くは、LTEなど3.9Gの通信方式に対応し、かつ初期状態でIPv6を活用するものになるのではないか」と述べた。このように、日本国内では2年後くらいをめどにIPv6インターネット接続が普及すると考えられる。