写真●日経BPクリーンテック研究所の志度昌宏研究員
写真●日経BPクリーンテック研究所の志度昌宏研究員
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 東京ビッグサイトで開催されているICT関連の総合展示会「ITpro EXPO 2011」の展示会場内メインシアターでは、連日興味深い講演プログラムが組まれている。その中の一つ「名物記者のトレンド解説」は、日経BP社の雑誌やWeb媒体で活躍している記者が自身の専門分野の最新動向などについて講演するという人気のプログラムである。

 13日の夕方に登壇したのは、日経BPクリーンテック研究所の志度昌宏研究員(写真)。志度研究員は「クラウドが社会をスマートに変える ~スマートシティにおけるICTの役割 ビッグデータに価値が潜む~」と題した講演を行った(関連記事関連イベント)。

 スマートシティとは、次世代電力網であるスマートグリッドを中核とするエネルギーシステムやICTを活用した交通システム、高速大容量の通信インフラなどを複合的に組み合わせた次世代型都市の概念のこと。遠い未来の夢物語ではなく、既に世界中でスマートシティ実現に向けた実験が続々とスタートしている。

 志度研究員はまず、スマートシティを取り巻く背景から説明を始めた。同氏によれば、日本では少子化や過疎化が話題となっているが、世界に目を向けると状況は180度異なっているという。2050年には世界の人口は90億人に膨れ上がり、そのうち60億人が都市部に流入、都市の中でビジネス活動を展開すると見積もられているとし、「例えば中国などでは農村部から都市部に向けて人がどんどん出てきている。スマートシティとして都市を整備しなければ、近い将来環境が成り立たなくなる」(志度研究員)。

 続いて志度研究員は、そうしたスマートシティ実現に向けて今後、世界中で莫大なお金が動くというデータを紹介した。2010~2020年の10年間に見込まれているスマートシティ向けのインフラ投資は、「アジアだけで8兆ドル」にも上るという。世界全体では2030年までの累計で3880兆円に達するといい、スマートシティの構成要素の一つである「スマートハウス」だけでも世界の市場規模は2020年に65兆円になるといった独自の調査データも披露した。

 これほどのお金が動くとなれば、当然、それを獲得すべく無数のプロジェクトが世界中で立ち上がり、激烈な競争が始まることは想像に難くない。志度研究員によれば事実その通りとなっており、所属する日経BPクリーンテック研究所が調査しただけでも既に400以上のプロジェクトが世界中で動き始めているという。少子高齢化という特殊な国内事情にばかり気を取られてこうした現実を見過ごしてしまうと、あっという間に世界から取り残されることは必至である。

 その国内におけるスマートシティを取り巻く状況についても志度研究員は触れた。志度氏によれば、3月11日の東日本大震災の後、スマートシティに求められる要件として「安全・安心・持続可能」という新たなキーワードが大きくフィーチャーされるようになってきているという。「新興国では新都市の建設、先進国では都市再生、そして日本では“復興都市”がこれからのスマートシティ像となる」(志度研究員)。

 スマートシティ実現の鍵を握るICT技術のうち、中核となるのはクラウド関連技術であり、都市にある様々なモノや人からセンサーなどを通じてクラウド上に集められた膨大なデータすなわち「ビッグデータ」の活用が特に重要となると志度研究員は力説した。

 「これまで個人がキーボードで入力していたような情報に加えて、今後は機械の動きや行動までがすべてセンサーを通じて直接データとして取得可能になる。そうして集まったモノの動きや人の嗜好・判断・知恵などのデータの集合体であるビッグデータを分析することで、“知りたかったけれどこれまでは分からなかったこと”が分かるようになる。また、ビッグデータを活用してクラウド上に仮想的な都市を再現して分析し、そこから新しいサービスを紡ぎ出すことも可能になるだろう。“ビッグデータが語り出す”時代はもうそこまで来ている」(志度研究員)。