写真1●ディー・エヌ・エーの小林賢治・取締役ソーシャルゲーム事業本部長
写真1●ディー・エヌ・エーの小林賢治・取締役ソーシャルゲーム事業本部長
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 千葉・幕張メッセで開催中の東京ゲームショウ2011(TGS2011)で2011年9月16日、ディー・エヌ・エー(DeNA)で取締役ソーシャルゲーム事業本部長を務める小林賢治氏が「DeNAのソーシャルゲームプラットフォーム戦略」と題して講演(写真1)。ソーシャルゲームの提供企業が成功するためのポイントやヒットゲームを生み出すのに必要な人材像について語り、グローバル市場で展開中のゲーム配信プラットフォームや開発ツールについて解説した。

 講演は、ソーシャルゲーム・ビジネスに成功する企業と失敗しがちな企業の違いを明らかにするところから始まった。小林氏はまず「『ソーシャルゲームを手がければ簡単に儲かりそうだ』とよく言われる。確かに成功企業の成長率や収益性は非常に高いが、実際には厳しい優勝劣敗の世界になっている」と語った。

 続けて同氏は、ソーシャルゲームの参入企業が失敗しやすいパターンに言及。「社内の余剰リソースだけでゲームを開発する、何もかも外注先に任せきりにする、ゲームをリリース後のメンテナンスをおろそかにする---。これらのパターンに当てはまる企業は上手くいかないものだ」と指摘した。

 続けて、ソーシャルゲーム成功の必要条件として、「エース級人材の投入」「スピード感」「製造業からサービス業へ」、という三つのキーワードを示した。

 ソーシャルゲームにおける設計・開発の工程は、ゲーム会社にとってそれほど大きな負担にならず、開発チームも多くの場合は数人程度と小規模で済むという。一方で運用工程は、従来のパッケージ型ゲームやオンラインゲームとは異なる発想で取り組む必要がある、と小林氏は指摘する。

 ソーシャルゲームにおける運用工程は例えば、ユーザーがどの画面でゲームプレイを中止したのかなどの利用状況を把握したり、ゲームプレイを続けてもらいやすいようにユーザーインタフェースを改善する、といったことだ。また、期間限定のイベントを定期的に実施する、機能やアイテムを継続的に追加する、などの工夫も含まれる。

 「ソーシャルゲームの運用工程では、ユーザーと常に対話しながら、非常に短い期間で素早くアップデートを繰り返す必要がある。従って、自分たちを“製造業”と思うのではなく、サービス業に携わっているんだ、という意識に変えていくことが重要になってくる。しかも仕事のスピードを一気に高めていかなければならない」(小林氏)。

 また、ソーシャルゲームにはスタート地点とゴール地点がなく、ユーザーの規模や属性、課金の有無、興味も時々刻々と変化し、ゲームの世界に反映されていく。それだけに、ゲームの生命線となるゲームバランスの調整は、パッケージ型ゲームなどと比べて難しくなる、と小林氏は言う。また、ユーザーの利用動向データを活用してゲームバランスを最適化しようとしても、「データ量が膨大過ぎて、そのままでは分析に使えない」「どのゲーム要素がユーザー行動にどういった影響を与えるかなどの相関性を把握しにくい」といった問題が立ちはだかる。

 こうした状況下でもゲームを継続的かつ迅速に改善し続けるために、ソーシャルゲームの開発に適したエース級人材が必要不可欠、というのが小林氏の主張だ。「さまざまなゲーム要素の中から、ゲーム自体の面白さを左右する部分がどれなのか直感的に理解できる。膨大な利用動向データの中から注視すべき項目を的確に絞り込み、ゲームの改善に生かせる。こうしたスキルを持つエース級人材がいるかどうかで、ソーシャルゲームのビジネス上の成果は大きく左右される」と、同氏は言い切る。