「これからの数年間で、10億人が利用するサービスを作り出したい。これは決して不可能な目標ではない」。ソーシャルゲーム大手であるグリーの田中良和 代表取締役社長は2011年9月15日、東京ゲームショウ2011(TGS2011)の基調講演で、こう宣言した。

グリーの田中良和 代表取締役社長
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 講演の前半で田中社長は、ソーシャルゲームにおける今後の戦略について語った(写真1)。まず、ソーシャルゲーム市場が急拡大した背景について「通信環境、流通手段、販売手法の三つの革新が同時に起こってきたからだ」と説明。“通信環境の革新”とは、携帯電話やスマートフォンなど通信機能を備えた端末の普及によって、多くのユーザーがネットワークへ常時接続できる環境が整ったことを指す。ゲームの作り手側もネットワークの常時接続環境を前提に、新しい発想のゲームを作れるようになったという。

 また常時接続環境の普及に伴って、コンテンツの電子配信サービスの利用も促進された。ユーザーが欲しいゲームを欲しいときに入手し、いつでも自由に始められるようになってきたのだ。これが田中社長の言う“流通手段の革新”だ。さらにゲームの利用形態についても、初期費用を無料とし、ユーザーの利用度合いに応じて課金していくという“販売手法の革新”も起こった。

 こうした三つの革新がほとんど同時に進んできたことで、ソーシャルゲームの利用は一気に拡大してきた。では今後はどのような方向に進化していくのだろうか。田中社長は、ゲーム業界を広い意味でコンピュータ産業の一種と捉えた上で、「コンピュータ産業が過去に経験してきた“ダウンサイジング”の流れが、ゲーム産業にも到来する」と予測する。

 このダウンサイジングを体現する存在として田中氏が注視しているのが、世界で急速に普及しているスマートフォンである。その実体は、パソコンに迫る処理性能を備え、デジタルカメラをはじめ様々なデバイスの機能を取り込んだ万能型のコンピュータだ。田中氏は「スマートフォンは世界で最も普及するゲーム端末になるはずだ」と見る。「従来の専用機によるゲームビジネスと、スマートフォンのような汎用機のゲームビジネスは対立するものではなく、互いに伸ばし合っていく関係にある。(手軽にゲームを楽しめる)スマートフォンの普及によって、ゲーム人口が爆発的に増加し、ゲームビジネス全体をより一層拡大するチャンスが生まれる」と続ける。

 こうした見通しを踏まえ、田中社長はグリーの成長戦略を描く。同社は主に携帯電話・スマートフォンを対象に、自営のゲーム配信プラットフォームやSNSを運営しつつ、自社でもゲームを提供している。「(プラットフォームとゲームの両方を手がける)垂直統合型のビジネスモデルは、世界のソーシャル市場を見渡してもほとんど例がない。このユニークなビジネスモデルをどうやって世界へ展開していくかが目下の命題だ」と、田中社長は語る。グリーの直近の会員数は全世界で1億4000万に達しており、そのうち8割程度が海外からの利用だ。こうした状況を踏まえ、同社は日本だけでなくグローバル市場に向けたサービスを量産するための体制を強化している最中だという。