写真1●東京ゲームショウ2011で基調講演に立つCESAの和田会長
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写真2●地層のように積み重なってきたのがゲームの歴史
写真2●地層のように積み重なってきたのがゲームの歴史
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 「クラウドが根本的な革命を起こす。コンピューティングインフラ、利益の源泉、制度がすべて変わる」。2011年9月15日に開幕した東京ゲームショウ(TGS)2011の冒頭の基調講演で、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の和田洋一会長は、クラウドがもたらすインパクトをこのように表現した(写真1)

 和田会長の講演タイトルは「ゲーム産業革命の本質」。市場の成長、けん引役となるゲーム要素、ビジネスモデルの3つの観点で、ゲーム業界でこれまでに起こってきたことを分析。データの蓄積だけでなくコンピューティング処理がネットワーク側に移るクラウド革命を展望した。

 和田会長によれば、ゲーム市場の歴史は「地層のような積み重ね」。アーケードゲーム機から家庭用のゲーム機、DVDプレーヤーとのハイブリッド機、携帯電話機/スマートフォンのような汎用機へと、時代ごとに次々とけん引役が登場。前世代のけん引役にとって代わるのではなく、上乗せすることで市場全体を拡大してきたという(写真2)

 和田会長は「ゲーム業界の決定的な分水嶺は2007年だった」とする。2007年は、「すべてのゲームがネット対応になり、iPhoneが登場した年」(和田会長)だからだ。汎用化することでゲームを楽しむためのハードウエア投資額が極限まで下がったのである。これにあわせてユーザーも「やる気満々の人から、気軽に楽しみたい人が増えた」。基調講演に参加したゲーム開発者など業界関係者に向け、このような変化を意識する必要があるとした。

ユーザーの体験の蓄積が価値となる

写真3●クラウド(コミュニケーション)が、プロセサと入力方法に続く第3のけん引役
写真3●クラウド(コミュニケーション)が、プロセサと入力方法に続く第3のけん引役
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写真4●ゲームの価値は、ハードやソフトから、ユーザー体験のログ(記録)へと移る
写真4●ゲームの価値は、ハードやソフトから、ユーザー体験のログ(記録)へと移る
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 けん引役となるゲーム要素から見た場合にクラウドは、2000年までのけん引役だったプロセサパワー、2010年までに様々な装置が登場した入力方法の革新に続く、第3のけん引役と位置付けられる(写真3)。クラウドにより、ゲーム体験やユーザー、ビジネスモデルが変わることから「ちょっとあせった」(和田会長)という。クラウド革命はまだ始まったばかりで、ほかのエンターテインメントとの競争も厳しくなるが、チャンスも拡大する、との見方を示した。ちなみに、第4のけん引役はアウトプット。「まだどうなるか分からない」としながらも、3D(3次元)映像や、現実と仮想映像の融合などを候補として挙げた。

 ビジネスモデル(課金)の観点でいえば、クラウド革命とは価格破壊や無料化ではなく「ユーザーの満足に従った価格をつけること」(和田会長)。その証左が、ソーシャルゲームのアイテム課金で、「ユーザーは、満足したものには対価を払っている」と指摘した。その背景には、ネットワークを使ったマイクロペイメントが可能になってきたことがある。

 講演の中で興味深かったのが、ユーザーにとっての価値の分析。これまで価値があるとされてきたハードウエア(ゲーム機本体)やソフトウエア(ゲームタイトル)は、コピーされると価値を失うリスクがあった。しかし、クラウド時代にはユーザーの体験の蓄積が価値となる(写真4)。ユーザーの体験は、複数のユーザーとのやり取りが増えれば増えるほどコピーは難しくなるという特徴がある。

 和田氏は講演のまとめとして「クラウドは根本的な革命である」とした。現在のゲーム業界が莫大な投資をして開発している端末は、「膨大なコンピューティングパワーを持っているものの、1日のうちに稼働している時間はほとんどない」(和田会長)。今後、コンピューティング処理がクラウドに移れば、投資先もクラウド側に移り、「産業がまるっきり変わる」。インフラの変化だけでなく、利益の源泉や制度も変わってしまうため、クラウドに積極投資した新興国のプレーヤーが主導権を握る可能性がある、作り手としては変化に対応する必要があるとして講演を締めくくった。