写真●あらた監査法人のパートナーを務めるスティーブン・チョン氏
写真●あらた監査法人のパートナーを務めるスティーブン・チョン氏
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 プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は2011年9月13日、IFRS(国際会計基準)の動向についてセミナーを開催し、11年1月にIFRSの強制適用を始めた韓国企業の状況などを説明。IFRS対応費用は4800万円から14億4000万円の間、費用の49.9%が情報システム関連、といった調査結果を明らかにした。

 韓国では強制適用に先駆けて09年に14社、10年に47社がIFRSを任意(早期)適用した。あらた監査法人のパートナーでPwC Japan韓国ビジネスグループのリーダーを務めるスティーブン・チョン氏(写真)は、「業種は様々だが、業界のリーダーとなる企業が任意適用し、同業他社が追随する形でIFRSの適用が広まっていった」と説明する。現状では、上場企業とその子会社を含めて約2000社がIFRSを適用している。

 「対応費用を最もかけたのは大手銀行」とチョン氏は説明する。韓国はIFRS対応費用の開示を義務付けており、韓国法人であるPwC Koreaがその内容を集計したという。チョン氏は、「対応費用は全体として、企業規模に比例して増える傾向にある。だが個々の企業で、費用のかけ方は大きく異なる」と分析する。企業の売上高に対するIFRS対応コストの割合は、売上高の0.4%を超えた企業が最も多く38.1%、同0.1~0.4%の企業が34.5%、同0.1%未満の企業が27.4%だった。

 対応費用の内訳を見ると、システム関連費用に次いで多かったのは外部アドバイザーの費用で25.0%。研修費用が15.0%、その他が10.0%となっている。チョン氏は「IFRS対応とともに業務標準化を目指し、親会社が主導して連結グループのシステムを統合する企業が多かった。システム関連費用が多くを占めたのはそのためだ」と話す。これまでの韓国の会計基準とIFRS適用後で連結の範囲が異なり、連結会計システムを新規に導入した企業が多かったことも、システム関連費用が多い一因となった。「新規のシステム導入だけでなく、システムの改修で済ます企業もいた」(チョン氏)という。

「グローバル市場での競争力向上に役立った」との声

 適用から9カ月が経ち、韓国ではIFRS導入の効果が出ているのか。チョン氏は「IFRSの直接の効果だけとは言えない」と前置きしながら、韓国市場の株式時価総額や海外投資家の保有金額、韓国企業の海外IPO(株式公開)が増えていることなどを効果の一例として挙げた。「IFRSの任意適用が始まった09年以降、株式の時価総額や海外投資家の保有金額が着実に増加している」(チョン氏)という。

 海外市場に上場する企業についても、リーマン・ショックが発生した08年以降の3年間は1社もなかったのに対し、11年は既に1社が海外に上場。「当社が把握しているだけで、あと5社が上場を準備している」(チョン氏)。「IFRSの強制適用が決まった当初は、韓国内でも賛否両論があった。コスト負担が大きいなどと反対する声も出ていた。だが強制適用後に企業に尋ねると、海外投資家への透明性の確保などグローバル市場での競争力向上に役立ったとする意見が多い」とチョン氏は話す。

 韓国でのIFRS対応の準備期間は約4年だった。07年に強制適用を決め、11年1月に適用を開始した。チョン氏は「対応プロジェクトの期間は平均で2年から2年半。準備期間はもっと短くてよいと思っている韓国企業が多い」という。ただし、「日本と韓国では企業文化も環境も異なるので、日本企業の準備には2年以上かかるだろう」(チョン氏)との見方を示した。