米Gartnerは2011年8月25日(現地時間)、Steve Jobs氏がAppleのCEOを退任すると発表した(関連記事)ことにともない、その影響を分析したレポートを発表した。

 アナリストはJobs氏退任の影響をどう見るのか。「短期的には急激な変化はない」(ガートナー ジャパン リサーチ部門 コミュニケーションズ モバイル/ワイヤレス担当 アナリスト 佐藤篤郎氏)というのがGartnerの予測だ。と同時に「長期的にはJobs氏のビジョンや力を必要とする場面も出てくる可能もある」とも言う。

 影響はないとするその理由は何か。将来、Appleが直面する可能性のある危機とはどのようなものか。以下、レポートの抄訳を掲載する。

Jobs氏が不在でもAppleは健在
著者:Gartner Research VP Carolina Milanesi 

<分析>

 Jobs氏とAppleを別のものとして考えることは難しい。Jobs氏は同社の共同設立者であり、最も成功した製品の多くを開発した人物である。製品の詳細だけでなく全体的な戦略を創造し主導したリーダーだ。彼こそがAppleがこれほど成功した理由なのだ。

 しかし、Jobs氏の退任はいずれは避けられないことであり、Appleはその日のために周到な準備を行ってきた。Jobs氏の退任はAppleにとって計画内のことだ。

 Jobs氏の真の遺産は、製品開発、実行する機能、および拡張のために新しい市場を調査しながら、品質と収益性を維持することをコミットメント(確約)するための効果的なプロセスを持つ企業を構築したことだ。Jobs氏は、Tim Cook氏をCEO代理として治療のために休暇をとったことがある。その際、Cook氏のもとでAppleは69%の成長を遂げた。Cook氏のサプライチェーンのスキルは、ハードウェアからその利益のほとんどを得る企業にとって特に重要な役割を演じてきた。

 Cook氏の経営をサポートする人材として、工業デザイン担当上級副社長のJonathan Ive氏、プロダクトマーケティング担当の上級副社長Phil Schiller氏らがいる。彼ら一人一人はJobs氏の強みのすべてを持っていないかもしれないが、我々は、彼らが優れたチームであることを証明すると信じている。Cook氏がCEOとしての最初の数カ月の間に克服しなければならない課題があったとしても、Jobs氏は会長としてAppleがその正しいロードマップを実行するよう指導者の役割を果たすだろう。

 2点だけ懸念がある。

 長期的には、Appleが既定のロードマップを越えて新しい地平を切り開く必要に迫られる場面で、Cook氏と彼のチームは、潜在的なチャンスを発見し、そこに完全に集中するJobs氏の戦略的なビジョンを、同じように実行することはできないかもしれない。しかし、このリスクを定量化することは不可能だ。

 DisneyとPixar、Appleの関係では、Jobs氏の強烈な個性と役割がなければ、Appleはこのような良い条件を交渉することができない可能性がある。だが、Cook氏はこのような交渉に関して豊富な経験を持っている。彼はSamsungなど、Appleの主要なハードウェアのサプライヤーとの条件を交渉するためのCOOとして、最終的な責任を負ってきた。

<推奨する戦略>

Appleの企業顧客、株主、パートナーおよび販売パートナー:

 従来通りビジネスを進めるべき。Jobs氏のCEO退任は、少なくとも2年間はAppleの能力に影響を与えることはない。

Appleの競合企業:

 努力を継続すべき。Appleはその市場を支配する競争力を引き続き保持している。Jobs氏の退任は付け入る隙にはならない。

[発表資料]