写真1●130人の高校生が参加して開催されたシンポジウム
写真1●130人の高校生が参加して開催されたシンポジウム
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 東日本大震災で被災した地域の高校生が「大震災で感じたこと、考え行動したこと、未来への願い」を発表するシンポジウムが、2011年7月29日に東北大学で開催された(写真1)。

 同シンポジウムを主催したのは、電子情報通信学会で「ヒューマンコミュニケーション」を扱う第3種研究会。東北大学のオープンキャンパスに参加した130人が20チームに分かれて、前日の28日夕刻から討論を開始、翌29日の朝から検討結果をそれぞれ模造紙1枚にまとめて発表した。

 29日のシンポジウムの冒頭、研究会の委員長を務める東京大学名誉教授の原島博氏が、今回のシンポジウムを開催することにした背景を説明した。原島氏によれば、同研究会では「電子情報通信の魅力を未来世代にどう伝えるか?」をテーマに議論してきたが、あるときから「このアプローチは違うかもしれない」と考えるようになったのだという。

 逆に「若い人たちから見た魅力は何かを考えてもらい、学会が学んだ方がいいのではないかと考えるようになった」とし、今回のシンポジウムの実現に至って、新しいアプローチが大正解だったとした。第2次世界大戦の終戦直後に生まれた原島氏は、今回の大震災と終戦とを重ね合わせ「これから新しい時代が来ることを直感的に考えて欲しい」と高校生に訴えかけた。

「メディアは真実を伝えているか」「責任感が希薄な政治」

写真2●数人のグループごとに発表
写真2●数人のグループごとに発表
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 その後、高校生グループ20チームが前日からの討論の結果を順番に発表していった(写真2)。今回のシンポジウムには岩手県の宮古高校や大船渡高校、宮城県の気仙沼高校など、三陸の被災地を中心に複数の高校が参加したが、異なる高校の混成チームとなるように、基本的には教員系や医学系など進路希望別のチーム構成とした。

 高校生は、配布されたカードに思ったことや行動したことを書き記し、グループごとに取りまとめて分類して共通項と関係性を見出していく、いわゆる「KJ法」によって意見集約した。

 あるチームは、従来の受け身の学び方に疑問を持ち、日本の教育制度の在り方を考えた。これは、一辺倒の情報に誘導されてしまった震災後の報道の影響を踏まえてのことだという。受け身の姿勢を脱して、自ら考えて行動すべきではないかとまとめた。

 別のグループは、学校以外での勉強がたくさんあることを実感したと述べた。例えば、情報をどうやって仕入れるか、そしてメディアが本当に真実を伝えているのかを考えるようになったとした。これは、報道で「復興に向かっている」と笑顔の被災者が映し出されていても、現実には仮設住宅にも入れない人がいるというギャップから生まれた疑問だとした。

 同じような情報しか伝えないメディアへの不満を口にするグループは複数あった。原発問題についても、「ずっと安全だと言われていたが、原発側の利益を重んじた操作された情報だった。結局自分たちは何も知らなかった」と、情報に接する自分たちの姿勢への反省を口にするグループもあった。 

 「情報があるだけで安心した」など、情報の重要性を語るグループはほかにもあった。あるグループは、震災後にTwitterなどで支援の輪が広がっていることを挙げて「共感することの良さ」を指摘した。

 逆に「人間とはばらばらでまとまりのない存在ではないか」、「お互いに分かりあえるわけではない」と、人間関係を見つめ直したグループもあった。例として、仮設住宅の設置場所のミスマッチを挙げていたが、避難所での密着した生活で摩擦を感じた結果なのかもしれない。メディア業界に興味があるという同グループでは、メディアの進化によって、様々な意見を持つコミュニティ間のきずなが広がるのではないかと期待した。

 ほかにも、「地域の人たちとコミュニケーションをとるようになってからは、生活もうまく回るようになった」など、人とのつながりの重要性を口にしたグループが数多くあり、非日常の経験のなかで何らかのコミュニケーションの必要性を実感したことをうかがわせた。

 政府や行政への不信感から、リーダー論に考えを巡らせたグループもある。このグループは、リーダーの条件として「努力、成果、謙虚さで一致した」という。さらに前日の講演に立った、東北大学医工学研究科の西條芳文教授の言葉を引用して、「縦の関係は不信感を生み、横の関係は安心感を与える。横の関係を土台として復興につなげたい」とした。

 政府対応への不満や指摘は少なくない。別のグループは「直後は働いているように見えたが、時間が経つに連れてどうでもいい争いばかりになっていった」、また別のグループは「希薄な責任感で政治をしている。適切な政治になっていない」と厳しく語った。

 医学系志望のグループは、医療ボランティアと地元医師との関係性を考えたという。ボランティアには残ってほしい一方で、地域開業医には診察や治療などからの収入が必要で、そのジレンマを目の当たりにしたのだろう。食品の放射能汚染についても強い関心があったようで、ここでも政府からの情報の信頼性が指摘された。

 エネルギー問題を議論した工学系志望のグループもあった。自分たちの生活が電気に依存し過ぎていたとし、「新エネルギーよりも、使用する量を減らすことに力を入れるべきではないか」という発想を推奨した。自分たちの経験を基に、「技術開発によって、被災した街が前よりもいい街になることに貢献していきたい」と力強く宣言した。