写真●鹿島建設でITソリューション部部長を務める松田元男氏(写真:皆木 優子)
写真●鹿島建設でITソリューション部部長を務める松田元男氏(写真:皆木 優子)
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 「クラウドの本質は、所有から利用への転換。固定費の多くを変動費に切り替えることで、常に最新の技術を利用でき、かつコストが減る」---。鹿島建設でITソリューション部の部長を務める松田元男氏(写真)は2011年7月27日、日経BP社主催の「日経BP Cloud Days Tokyo 2011 SUMMER CONFERENCE」の基調講演に登壇し、鹿島建設のクラウド・コンピューティングの取り組みについて説明した。

 鹿島建設のクラウド・コンピューティングへの取り組みは早い。2006年から2009年にかけて、産業技術総合研究所(産総研)との産学連携プロジェクトにユーザー企業として参加し、クラウドをビジネスに生かす検証実験に取り組んだ。この経験を踏まえ、2010年10月には建設業の解析計算処理をクラウドに切り替えた。2011年5月には、情報系システムの電子メールをクラウドに移行した。

 解析計算処理をクラウドに切り替えたことによって、計算処理は6倍速くなり、コストは4割削減。計算処理の高速化は最新技術を使えることで得られ、コスト削減は固定費から変動費への切り替えによって実現した。解析計算は、建設業にとっての基幹業務の一つである。建設では、同じ建築物を2度作ることはなく、個々の建築プロジェクトごとに解析計算が必要。こうした解析処理には、例えば、クリーン・ルームの粉塵流動状態の解析、高層建築物の周囲を流れる風の乱流解析、トンネル火災の解析、などがある。

 産総研とのプロジェクトは、鹿島建設が2002年に取り組みを始めた秋葉原再開発事業に端を発する。2005年3月に鹿島建設が作った秋葉原ダイビルは、5Fから16Fが産学連携フロア。11Fに産総研、6Fに鹿島建設のサテライト・オフィスがあった。こうした経緯で、「グリッドASP」と呼ぶ、産総研が取り組んでいたクラウドの検証プロジェクトに参加した。

 検証では、鹿島建設の解析計算処理の一部をクラウドへ移行した。クラウド(コンピュータ・リソース)に、鹿島建設側にある日立製作所のスーパー・コンピュータ「SR11000」や、産総研のつくばセンターにあるクラスタ・システムなどを接続し、相互にリソースを利用できるようにした。

 検証プロジェクトを通して分かったことの一つが、超集中化と超分散化という、ITの2つの動向である。超集中化は、データセンターへの統合など、IT資源が地理的に集中することを指す。効果は、経済的合理性(スケール・メリット)として現れる。もう一つの超分散化は、ユビキタス(偏在)やモバイル・コンピューティングの流れだ。

 今後、鹿島建設では、クラウドへの取り組みを加速する。2009年度から2011年度の中期経営計画では、ITの基本方針として、クラウドの利用を掲げている。具体的には、事業競争力にITが貢献することを掲げるとともに、電子メールなどのように他企業と共通しているインフラは自社で所有せずにクラウドを利用することを掲げている。

 所有から利用への転換はクラウドの本質であると松田氏は言う。「ITは今まで固定費(アセット)だったが、これを費用(エクスペンス)にする」(松田氏)。企業がITに求める要件は、コンプライアンスやBCP(事業継続計画)、グローバル化など拡大しており、これに合わせてITコストが膨張。こうした事態を、クラウドによる固定費から変動費への転換によって改善できるという。

 クラウドによる固定費から変動費への流れは重要だが、現状ではまだ課題もあるという。例えば、クラウド・サービス事業者などとの契約上の制約によって、すべてを変動費にできるわけではないという問題がある。現状では「平均して固定費が4割残る。変動費にできるのは6割程度」(松田氏)である。また、リソースを拡張したい時にすぐに拡張できるサービスばかりではない点について触れた。