基調講演に登壇したガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏
基調講演に登壇したガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏
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 「ITインフラのデータをどう管理していくのか、トレンドに振り回されず、あるべき姿を描いて行動すべき」。日経BP社が2011年7月21日に開催したストレージ・セミナーの基調講演で、ガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏(リサーチ部門 リサーチ ディレクター)が企業の取り組むべきストレージ戦略について語った。

 講演の冒頭で鈴木氏は、日本のITインフラについて聞こえてくる声を挙げ、現状の課題の大きさを示した。例えば、多くの企業はクラウドコンピューティングに取り組んでいるが、構築自体が目的となりがちな傾向があるという。また、IT現場は経営層への不信感を、経営層はIT現場への不信感をお互いに持っている。これに対し、米国や欧州、中国の企業は、非常にアグレッシブ(挑戦的)であり、このままでは日本のユーザーやベンダーが世界から取り残される危険性があるという。

 ではどうすればよいか。同氏は、ITインフラについてはユーザーもベンダーも「あるべき姿を明らかにして、ともに戦う」ことを提案する。それぞれ、日々の業務に対する目標は持っているが、今一度初心に戻って長期的な戦略を立て直すことが重要という。同氏はITインフラについて長期的に取り組むべき施策を「ストレージ戦略の視点」「インフラ仮想化への準備と実践」「ストレージ管理の展開モデルとは」という三つの観点から解説した。

 まず、「ストレージ戦略の視点」に関する解説では、「クラウド」や「ビッグデータ」「仮想化」「事業継続」といった最新のトレンドを示し、それらに共通するテーマに注目すべきであるという。鈴木氏は、それを「ITインフラにおけるデータの扱い方」であると指摘。アプリケーションやミドルウエアに対してITインフラが必要な機能をサービスとして提供する「サービス視点」への転換も踏まえて、ストレージのあるべき姿を描くことが重要だと説いた。

 「インフラ仮想化への準備と実践」に関する解説では、あるべき姿を描くためにより具体的なITインフラの姿を示した。複雑化したITインフラに対する解決策として、インフラ仮想化によるプライベートクラウド(自社専用のクラウド)構築が「不可避のトレンド」になるという。米国企業ユーザーに対してガートナーが行った調査では、プライベートクラウドを追求するという回答が76%に達している。

 仮想化したインフラでは、物理層はリソースを追加したり、入れ替えたりすることが比較的簡単にできるようになる。サーバーやネットワークに比べるとストレージの仮想化は比較的分かりにくいと言われるので注意が必要であるが、ストレージが上位のアプリケーションやミドルウエアに対して提供すべきサービスは「性能」「記憶容量」「可用性」「RTO(Recovery Time Objective)/RPO(Recovery Point Objective)」の四つだけであり、これをゴールド、シルバー、ブロンズなどの単純化したサービスメニューとして用意する方法を紹介した。

 「ストレージ管理の展開モデルとは」に関する解説では、大量にあるストレージの管理技術を時間軸をベースに整理し、段階的な取り組み方を示した。最初の段階では、ストレージに取り組む組織を設けることが理想という。現実には困難だが、少なくともストレージの責任者を任命し、ベンダーへの依存度を下げる必要があるとした。同氏は、これを出発点として段階的にストレージ技術の展開を行い、「多様なクラウド活用」へと向かう流れを示した。