写真●「IT Japan 2011」で講演したシグマクシスの渡邊 達雄 パートナー(撮影:皆木優子)
写真●「IT Japan 2011」で講演したシグマクシスの渡邊 達雄 パートナー(撮影:皆木優子)
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 「日本企業は、ソリューションビジネス(課題解決型ビジネス)に取り組んでいるといいながら、その多くはプロダクトビジネスモデル(モノ売り型ビジネスモデル)のままでいる」---。

 2011年7月13日、シグマクシスの渡邊 達雄 パートナー(写真)は都内で開催中の「IT Japan 2011」において「ビジネスモデル 3.0 ~新しい価値を創造し続ける組織の姿とは」と題して講演し、このように指摘した。そして真の課題解決型ビジネスモデルとなるための改革を解説した。

 渡邊パートナーによれば、現状のソリューションビジネスの多くは、まずベンダー本社のシニアが社内の製品やサービスを組み合わせて提供する販売戦略を作り、それに従って若い営業担当者にパンフレットなどを持たせ、顧客に説明して回らせている。「これはいわば『ソリューションのプロダクト化』だ。個々の顧客の課題をつかみに行っていない」と評した。

 渡邊パートナーが「ビジネスモデル3.0」と呼ぶ真のソリューションビジネスは、営業担当者が、顧客の属する業界やポジショニングなどを理解することから始まる。シニアの営業担当者が顧客の上位マネジメント層にアプローチし、仮説を何度もぶつけながら信頼感を獲得していく。そして本当の課題を聞き出してから、技術などに詳しい若い人材と協力してどんなソリューションを提案するかを考える。

 こうしたビジネスモデルを実行するためには、営業改革と人事改革が不可欠だという。営業担当者は、本当の課題を聞き出せる深い関係を築くことが求められる。顧客に応じた仮説を立てて信頼感を得るプロセスには時間がかかるので、商談の進捗を把握する「パイプラインマネジメント」も必要になる。

 人事面では、課題解決に必要なハードウエアやソフトウエアなど複数組織の人材から成るプロジェクトチームを、柔軟に組めるようにならなければならない。人的資産の可視化も必要だ。また、顧客にこれまでどんな情報やソリューションを提供したかといったナレッジマネジメントも欠かせない。顧客の課題を見抜き、提案できる優秀な人材はそう多くはないので、そうした人材が複数プロジェクトを掛け持ちしやすくするためのモバイル環境を整える必要もあるという。

日本企業のグローバル展開はマネジャーに依存しすぎとの指摘も

 こうした改革の中で、営業改革におけるパイプラインマネジメントと、人事改革における人的資産の可視化については、特に詳しく解説した。

 パイプラインマネジメントについては、「リレーションを確立し顧客に関心を持ってもらう」「課題や購入方針などを顧客に話してもらう」「課題に対する提案を提出し、採用を検討してもらう」「最終的な提案書を出す」「契約する」「ソリューションを提供する」「ソリューション提供の結果に満足してもらう」といったステップで進ちょく管理することを例として挙げた。

 「現実には、課題を聞き出せた顧客に対する提案やクロージングを迅速に進める活動と、次の四半期のためにリレーションを確立した新規顧客を獲得する活動を、同時に行わなければならない。外資系に比べると、日本企業はこうした営業管理への取り組みが遅れている」と指摘した。

 人的資産の可視化については、「プロジェクトマネジメント能力」「企画立案能力」「プロセス改善能力」「ソリューション開発力」「お客様との関係性構築力」といった項目について、個々の人材の能力を測定して管理できる仕組みを作るよう提言した。「従来の人事管理の仕組みでは、職歴や英語力、リーダーシップの有無などは分かるようになっていても、ソリューション提供のために何ができるかを把握できるようになっていない」と見ている。

 講演後は、「グローバル化の課題に対して、日本企業はマネジメントや情報システムの面でどう対応するべきか」との公開質問を受けた。渡邊パートナーは「日本企業は他国の企業に比べて、海外拠点でマネジメントできる人材が足りないとする声が突出して多い。これはマネジメントの可視化が不十分で、現地マネジャーの能力への依存度が高いためである。もっと情報システムを使いこなし、現地拠点の業績や来月の見通しがシステムを通じて把握できるようなオペレーション体制を構築していくべきだ」と提言した。