写真1●ICTを活用したみかん栽培の実証実験で使われているスマートフォン(左)やセンサー(右下)の実機
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写真2●従業員がスマートフォンで撮影したみかん樹木の様子や観察記録は、パソコン上で確認できる
写真2●従業員がスマートフォンで撮影したみかん樹木の様子や観察記録は、パソコン上で確認できる
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写真3●果樹園に植えられているみかん樹木の状態を可視化した画面。対応が必要な樹木はどれか、すぐに確認できるようにしたという
写真3●果樹園に植えられているみかん樹木の状態を可視化した画面。対応が必要な樹木はどれか、すぐに確認できるようにしたという
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写真4●右から和歌山県有田市の望月良男市長、早和果樹園の秋竹新吾社長、富士通の岡田昭広クラウドビジネスサポート本部長、和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場の宮本久美栽培部長
写真4●右から和歌山県有田市の望月良男市長、早和果樹園の秋竹新吾社長、富士通の岡田昭広クラウドビジネスサポート本部長、和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場の宮本久美栽培部長
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 早和果樹園と富士通は2011年7月7日、みかん栽培へのICT活用に関する実証実験を開始したと発表した。早和果樹園は和歌山県有田市でみかん栽培を手がけている。実証実験のスタートは3月から。5月から園地の本格的なデータ収集作業に入っている。

 この実験では、約5000本の樹が植えてある早和果樹園のみかん園地に、モニタリング用のセンサーを配置した(写真1の右下)。このセンサーを使って、園地の気温や降水量、土壌温度などのデータを蓄積する。

 園地の従業員にはスマートフォンを持たせる。従業員は番号札が付けられた約5000本のみかん樹木を見回りながら、樹木の育成状況や病害虫の発生具合などをチェック。葉や幹の様子をスマートフォンで写真に取ったり、「新芽が出ています」「枯れました」などコメントを入力したりして、サーバーにアップロードする。

 果樹園は収集したデータを、生産指導や経営計画に反映させる。果樹園のマネジャーはパソコン上に表示される各種のデータを確認(写真2写真3)。データをもとに、例えば「みかんの糖度を上げるために水切りをしよう」「この木は枝が伸びすぎているので剪定しよう」「つぼみが付き過ぎているので数を減らそう」といった指示を出す。

 各種の情報は、今回の実験に協力している和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場にも提供する。果樹試験場は、試験場が持つ各種の試験データと果樹園のデータを付き合わせながら、「これから降雨量が増えそうなので排水に気をつけるべき」などといった形で、より効果的なみかん栽培ができるよう果樹園にアドバイスする。

 各種のハードウエアやソフトウエアは富士通が提供する。富士通は2008年から農業事業者向けのクラウド型システム「農業クラウド」を構築し、実証実験を進めている。今回のみかん栽培についてもこれをインフラとして使い、センサーやスマートフォンから得られたデータを、富士通のクラウド側で集約して管理する。スマートフォンやパソコン向けのアプリケーションは、今回の実証実験用に個別に開発した。

 実証実験を通じて期待している効果は、大きく3つ。1つは、みかんの生産性向上。早和果樹園の秋竹新吾社長は、「みかんの樹木一本一本の生育状態をきちんと管理できるようになったので、必要なケアを実施できる」と語る(写真4)。「高品質なおいしいみかんを作るためには、樹木に対するきめ細かな対処が欠かせない。以前はやりたくてもなかなかできなかったが、この仕組みにより、確実にできるようになる」(秋竹社長)。また和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場の宮本久美栽培部長は、「樹木単位のデータが取れるようになったことで、これまでは把握が難しかった、気象状態とみかんの生育状況の規則性を見つけることも期待できる」と話す。

 2つ目は、若手従業員の人材育成。従業員への作業指示やアドバイスを通じて、熟練従業員が持つノウハウを継承できるとしている。

 3つ目は果樹園の経営品質の向上。蓄積したデータをもとに、「樹木がどんな状態の時には何をするか」という作業の標準化やノウハウの明文化を図り、生産性の向上や作業コストの明確化に役立てる。秋竹社長は、「これまでのみかん栽培は、熟練従業員による勘と経験に頼る部分が多かった」と打ち明ける。

 有田地域の農業協同組合であるJAありだでは、「味一みかん」というブランドのみかんを出荷している。取れたみかんのうち、糖度などの一定条件をクリアしたみかんをブランド化して販売している。早和果樹園では全体のうち25%のみかんを味一みかんとして出荷しているという。秋竹社長は「ICTの活用により、味一みかんの発生率を70%にまで上げたい」と語る。

 富士通はこの実証実験を通じて、農業クラウドの果樹園での適用方法を確立することを狙う。これまで富士通は、野菜については宮崎県の新福青果、水稲については滋賀県のフクハラファームと協力して、農業クラウドの効果検証を進めてきた。富士通の岡田昭広クラウドビジネスサポート本部長は、「これらの実証実験では、収穫量が増えたりと一定の成果が出てきた。今年度中には農業クラウドを商品化し、来年度にも本格的な拡販体制に入りたい」と述べる。