富士通は2011年6月21日、製造業向けのクラウドサービス「エンジニアリングクラウド」を発表した。実際のサービス開始は10月の予定。

 エンジニアリングクラウドのサービスは大きく「エンジニアリングクラウド/SaaS」と「エンジニアリングクラウド/PaaS」の2つに分かれる。

 エンジニアリングクラウド/SaaSはCADやCAM(コンピュータ支援製造)、数値解析・シミュレーション、PDM(製品情報管理)といった製造業向けアプリケーションをSaaS形式で提供する。また、これらアプリケーションに付帯する富士通社内の設計・製造ノウハウをコンサルティングサービスとして提供する。

 もう一方のエンジニアリングクラウド/PaaSは、ユーザー企業が保有しているCADやPDMのシステムを、富士通のデータセンターで運用するサービス。ユーザー企業は富士通に預けた自社システムをネットワーク経由で利用する。

独自の圧縮・転送技術でデータ転送量を約10分の1に

 CADやPDMでは図面や部品の設計データなど大量のデータを処理する必要があるので、ネットワークを経由したアプリケーションを実用的な速度で提供することが一般的には難しい。多くの製造業のユーザー企業では、自社内にクライアント/サーバーシステムを設置し運用しているのが現状である。

 そこで富士通は、エンジニアリングクラウドに「RVEC(レベック)」という画像データの圧縮・転送技術を採用した。これにより、「ネットワーク越しでも快適な操作速度で利用できる」(永嶋寿人民需ビジネス推進本部PLMビジネスセンター長)という。

 富士通のデータセンター側で動作するRVECのサーバーソフトウエアが、CADやPDMソフトウエアが出力している画像を解析。RVECはその差分だけを検知し、ネットワーク越しにあるパソコン側のRVECクライアント・ソフトに送り出す。RVECのクライアント・ソフトは、その差分データを使ってパソコンの画面に画像を表示する。

 この仕組みにより、画像のデータ転送量が通常の処理形態に比べて約10分の1で済むという。またクライアント側の処理負担が軽くなるため、通常のデスクトップ型パソコンやノート型パソコンでも十分に操作可能になる。従来のCADシステムでは、画像処理専用プロセサを搭載する高性能なワークステーションを必要としていた。

 RVECは富士通研究所や富士通アドバンストテクノロジが開発・実用化した。「RVECは原理的にはどのソフトウエアの画像でも同じように処理できるので、医療向けのクラウドなどほかの分野への応用も考えている」(永嶋センター長)。

 エンジニアリングクラウドの具体的なサービスメニューや料金は、10月の開始時に発表する。永嶋センター長によれば、エンジニアリングクラウド/SaaSについては、個々のアプリケーションの料金を1ライセンス当たり月額数十万円単位に設定する予定。「これまで顧客企業が用意してきた従来型のシステムに比べて、十分なコスト削減につながる料金にする」(永嶋センター長)。