第12回情報通信行政・郵政行政審議会有線放送部会が2011年6月20日に開催された。同部会は、(1)よさこいケーブルネットから申請された再送信同意に係る裁定に関する審議(諮問第2004号、4月7日諮問)と、(2)山口ケーブルビジョンおよび美祢市から申請された再送信同意に係る裁定(諮問第2005、2006号、5月18日諮問)に関する審議を非公開の形で進めてきた。今日、これら諮問に対する答申を出した(答申に対する民放連の会長コメントの記事はこちら)。

 有線テレビジョン放送法第13条第5項においては、放送事業者等が同意をしないことにつき「正当な理由」がない限り、総務大臣は同意すべき旨裁定することが定められている。この「正当な理由」に関するガイドライン(こちら)が2008年に定められている。有線放送部会はこのガイドラインに沿って審議を行ってきた。

 ガイドラインでは、放送事業者などの「番組編集上の意図」である「放送の地域性に係る意図」の侵害の程度が、その放送等の再送信に係る「受信者の利益」の程度との比較衡量において、許容範囲内(受忍限度内)にあると言えない場合には放送事業者などが同意しないことの「正当な理由」があると言えると規定している。

 今回の審議でもこの「比較衡量」の判断が重要になった。区域外再送信を実施した場合、一定程度の「放送の地域性にかかる意図」の侵害は認められる。一方の「受信者の利益」はケースにより異なり、この大きさをどう判断するかで、ケースごとの答申内容を分ける結果となった。今日部会長会見で配布された資料から、有線放送部会の判断の中身と、その理由を説明する。

<よさこいケーブルからの申請、「同意すべきとは認められない」と判断>
 よさこいケーブルネット(業務区域は高知県須崎市、土佐市)からあった再送信同意に係る総務大臣の裁定申請は、裁定の申請日は2010年6月24日、裁定申請に係る放送事業者はテレビせとうち(テレビ東京系、放送対象地域は岡山県、香川県)、再送信しようとする放送は、テレビせとうち所属の西讃岐テレビジョン中継局の放送である。

 答申では「同意をしない正当な理由があると認めらるため、同意すべきとは認められない」旨裁定することが適当とした。

 この件に関し、テレビせとうちは、「再送信により放送の地域性に係る意図が侵害される」「放送番組の販売収入が大幅に減少する」という2点を同意しない理由として主張したという。

 答申では、「テレビせとうちの放送対象地域と申請者の業務区域との間の人・物などの交流状況など(通勤・通学など人の移動状況は極めて小さい、経済的取引状況は極めて小さい、電波のスピルオーバーはない、視聴習慣・視聴実態はない)を理由に、「受信者が自らの生活などに必要な地域情報の取得」の観点からみた受信者の利益は極めて小さいと判断した。受信者の利益が極めて小さいため、「放送の地域性に係る意図」の侵害の程度が受忍限度内にあるとは言えず、再送信に同意をしない正当な理由と認められるとした。

 なお、「放送番組の販売収入が大幅に減少する」という主張については、放送事業者の番組編集上の意図と関わるものではなく、再送信同意をしない正当な理由とは認めなかった。

<山口ケーブルからの申請、「すべて同意すべき」と判断>
 山口ケーブルビジョンおよび美祢市からあった再送信同意に係る総務大臣の裁定申請は、福岡県の放送事業者4社(福岡放送、アールケービー毎日放送、九州朝日放送、TVQ九州放送)所属の北九州標準デジタルテレビジョン放送局の放送である。裁定申請日は2011年3月30日である。

 山口ケーブルビジョンからの申請について、答申では「福岡民放4社の放送の再送信について、同意をしない正当な理由が認められないため、すべて同意すべき」旨裁定することが適当とした。

 この件について福岡民放は4社とも、再送信により「放送の地域性に係る意図が侵害される」と主張した。

 答申では、「福岡4局の放送対象地域と申請者の業務区域との間の人・物などの交流状況など(通勤・通学など人の移動状況は一定程度認められる、経済的取引状況は一定程度うかがえる、電波のスピルオーバーの状況は一定の面的広がりをもって存在する、一部地域を除き視聴習慣・視聴実態が認められる)を理由に、「受信者が自らの生活などに必要な地域情報の取得」の観点からみた受信者の利益あると認めることができるとした。その上で、受信者の利益が認められるため、「放送の地域性に係る意図」の侵害の程度が受忍限度を超えているとは言えず、再送信に同意をしない正当な理由とは認めらないと判断した。

 なお、放送局はこのほか、「地元放送事業者の同意がない」(TVQ)、「再送信を求められている放送局の番組の多くは、同一系列の山口民放局の番組と同じであり、情報格差はない」(KBC)など主張したが、放送事業者の番組編集上の意図が侵害され、また歪曲されることをうかがわしめる主張とは言えず、再送信に同意しない正当な理由とは認められない、と判断した。

 美祢市からの申請について答申では、有線テレビジョン放送法13条第3項の「協議が整わず、またはその協議をすることができないとき」に該当しないため、拒否処分とすることが適当とした。

 この件について福岡民放は4社とも「大臣裁定申請の要件に該当しない」と主張した。

 実質的な協議は大臣裁定を申請する直前の2回のみで、協議期間も1カ月未満であり、福岡民放4社は十分な協議が行われていないため当時者間の協議の継続を求めているという。申請者は2回目の協議において大臣裁定申請の意向を表明しており、十分な協議が行われておらず、歩み寄る余地がないものとは言えないと解さざるを得ないとした。

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