写真●中外製薬の岡村真吾情報システム部ITインフラグループマネジャー(撮影:平瀬 拓)
写真●中外製薬の岡村真吾情報システム部ITインフラグループマネジャー(撮影:平瀬 拓)
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 「今すぐにでも、急いで災害対策と仮想化環境の導入を進めたいなら、我が社の事例は参考になるはず」――。2011年6月1日、都内で開催された「ユーザーのための仮想化フォーラム2011 ~確かなプライベートクラウド構築のために~」の基調講演に登壇した中外製薬の岡村真吾情報システム部ITインフラグループマネジャー(写真)はこう述べた。「基幹システムの仮想化と災害対策用システム再構築の同時実現」と題した講演では、基幹システムに仮想化技術を導入しただけでなく、同技術を活用し効率的な災害対策を進めている同社の先進的な取り組みを紹介した。

 中外製薬は、「SAP R/3」で構築している基幹システムを、仮想化環境で稼働させている。仮想化ソフトには、「VMware ESX」を採用。これら基幹システムはメインのデータセンターに設置する。さらにバックアップのデータセンターも用意し、そこでも仮想化環境を構築。大規模災害時には災害対策用システムが立ち上がる仕組みになっている。バックアップの仮想サーバーは通常時、開発用に使い有効活用している。

 2011年現在は、メインのデータセンターには、25台の物理サーバーがあり、200台の仮想サーバーが稼働。バックアップ用データセンターには、15台の物理サーバーで90台の仮想サーバーが稼働中だという。「ヴイエムウェアや日立製作所の支援を受けながら、こうしたシステム構成を作り上げた」(岡村ITインフラグループマネジャー)。

 同社が仮想化技術に着目したのは2007年ごろ。その後、基幹システムへの導入だけでなく効率的な災害対策のシステムを作る上でも仮想化技術を有効活用できると考えた。「医薬品を提供する企業として、患者への製品供給のために災害対策はしっかりやるべき」との要請も経営層から岡村ITインフラグループマネジャーは受けていたという。だが、それほどコストはかけられない。「常時使うわけではない災害用システムを、できるだけ効率的に作るため仮想化技術に着目した」(同氏)。

 現在の災害対策システムでは、メインのデータセンターののシステムと、バックアップのデータセンターのシステムがデータの同期を取る。災害時には「半日程度でシステムの切り替えができる」(岡村ITインフラマネジャー)。今後、さらにこの仕組みを進化させ、両データセンターのシステムをあたかも一つのシステムのように運用し、災害時には相互にバックアップできるようにしていくという。

 岡村ITインフラマネジャーは、仮想化のメリットとして、リソースの有効活用やサーバー構成の標準化などを挙げた。高度な障害対策や効率的な災害対策が可能なため、さらに仮想化技術の活用を進める計画だ。現在の仮想化環境は社内にあるが、今後は社外の仮想化環境をプライベートクラウドとして利用することを検討するという。そのためには、「事業者側で適切なセキュリティー対策が取られていることや、ユーザー企業としても業務システムの運用手順の標準化などが必要になる」と指摘した。