写真●左から八木浩一氏、嶋坂紀隆氏、林信行氏
写真●左から八木浩一氏、嶋坂紀隆氏、林信行氏
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 「様々な代替手段がスマートフォンの特徴。それが災害時の強みになった」---。

 2011年4月26日から28日までの3日間にわたって開催しているスマートフォンの総合カンファレンス「スマートフォン2011春」(主催:日経BP社)で4月26日、特別講演として「災害時に、スマートフォンは役立ったのか?」と題するパネルディスカッションが実施された。パネリストとして登壇したジャーナリストの林信行氏は、スマートフォンの災害時の強みについて冒頭の言葉でまとめた。

 パネルディスカッションには、林氏のほかに、災害時交通流監視システム研究会代表の八木浩一氏と、震災情報サイト「sinsai.info」の運営メンバーの一人であるベルリック・ドット・コムの嶋坂紀隆氏が参加した(写真)。モデレータは、日経コミュニケーション副編集長の菊池隆裕が務めた。

 スマートフォンはセンサーやカメラなど様々な機能を持つ。通信手段には一般の携帯電話回線のほか、無線LANによるネットワーク接続も使える。そして、様々なアプリを利用できる。この点が災害対策として役に立つという点では3者が一致した。

 林氏は「地震当日に携帯電話でのデータ通信が使えなくなっているなか、モバイルルーターを使ってWiMAXでTwitterを使っている人がいた。電話はできなくてもSkypeが使えたという例もあった。Skypeが使えないけど(Skype類似のIP電話ソフトである)Viberは使えたという人もいた。色々な手段を使えることが重要だと認識した」と言う。

 八木氏は自動車のダッシュボードにスマートフォンを置くだけで、道路の段差を調べられる「Bump Recorder」を公開した。このアプリで情報を収集して、地震被害を受けている道路の状況を可視化した。八木氏は「スマートフォンではアプリを開発するだけで情報収集が可能になった。従来は様々な機器を組み合わせた専用装置になり、多くの人に使ってもらうのは難しかった」と評価する。

 嶋坂氏はスマートフォンの強みを踏まえつつ、「被災地ではデータ通信できない場合も多い。オフラインでも使えるアプリや機能を充実させてほしい。また、日本では通信事業者を超えたSMS(ショート・メッセージ・サービス)が使えない点が、スマートフォンの活用でネックになっている」とメーカーや事業者への要望を挙げた。

課題は情報の収集方法から情報の読み解き方へ

 東日本大震災では、Twitterをはじめ様々なソーシャルメディアで情報発信がなされた。嶋坂氏の立ち上げたsinsai.infoはそうした情報を集約するサイトだ。その運営経験から嶋坂氏は、「情報の確かさの確認に苦労している」と語る。「200人のボランティアが動いているが、情報収集から公開まで最大で2週間かかったりした」(嶋坂氏)。

 特に苦労しているのは、原子力発電所の事故に関しての情報だと嶋坂氏は言う。嶋坂氏は、「初期のころはTwitterでも有用な情報が多かったが、だんだん(他人にはあまり有用ではない)個人的な感想が増えてきた。最近では原発関連タグでの情報収集をやめている」と打ち明ける。

 林氏もソーシャルメディアでの情報発信が裏目に出ていた面があったと見る。「Twitterで『#save_fukushima』や『#save_iwate』といったハッシュタグを見ていた。朝や昼、深夜は『どこそこでガソリンの販売が始まった』など有用な情報が多い。しかし夜8時や9時になると、被災地の外から『雨水を飲む方法』などあまり必要のない情報が拡散されていた」と言う。地域ごとに情報ニーズに違いがあり、その点に意識の及ばないユーザーが的外れな情報発信をしてしまう構図だ。

 林氏は、「災害時には情報を読み取るスピードをちょっと落とした方がいい」とアドバイスする。例えば、救助を求めるツイートをすぐにリツイートするのではなく、前後のツイートを確認するだけで意味のある情報とノイズを選別できることがあるという。

 以前から活動していた八木氏によると、過去の災害に比べると東日本大震災の情報量は格段に多かったという。「以前は情報の入手がそもそもの課題だったが、今は情報の読み解き方が課題になった。確からしい情報を振るい分けたり、地図情報を使って分かりやすく提示したりといった情報発信の洗練が必要になる」(八木氏)との見解を示した。

■変更履歴
掲載当初、嶋坂紀隆氏を「震災情報サイト「sinsai.info」を運営する」と紹介していましたが、正しくは「震災情報サイト「sinsai.info」の運営メンバーの一人」です。また、本文7段落目発言は当初掲載時は八木氏によるものとなっておりましたが、正しくは嶋坂氏によるものです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2011/05/09 19:20]