写真1●KDDIの田中孝司社長
写真1●KDDIの田中孝司社長
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 KDDIは2011年4月8日、東日本大震災の被害と復旧状況について説明会を開催した。状況を説明した同社の田中孝司社長(写真1)は「地震発生直後の早い時期に復旧体制を確立し、4月7日12時現在でau携帯電話基地局は約91%、固定通信回線は約99%復旧した。4月末までに福島原発の制限地域を除いて、カバーエリアは震災前とほぼ同等のレベルまで復旧予定」との見通しを示した。なお今回の震災による被害総額は「数百億円の下の方になる」(田中社長)という。

「人員と物資の輸送に必要なガソリンの確保に最も手間取った」

写真2●KDDIが公開した被災状況<br>基地局や海底ケーブルの陸揚げ局が大きな被害を受けている。
写真2●KDDIが公開した被災状況
基地局や海底ケーブルの陸揚げ局が大きな被害を受けている。
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 今回の震災によって同社は、沿岸部で基地局が30~40局水没、停電などによって東北6県で最大1933局の基地局が停止、海底ケーブルの陸揚げ局舎の損壊、3ルートある同社の基幹網のうち2ルートが切れるなど、広範囲に渡って大きな被害が起きた(写真2)。特に基幹網については、海底ケーブルと東北自動車道沿いに敷設したケーブルの両方が切れ、かろうじて残った電力系のルートでしのいだという。東北自動車道沿いのルートは仮設ケーブルによって復旧したが、現行の運用体制を見直す必要性から、秋田県など日本海側を通るルートの新設に着手したという。

 基地局の障害は停電の影響が最も大きかった。一般に、基地局は3時間程度の非常時のバッテリーを持つが、停電時間がそれを超えると停止してしまう。最大1933局の障害のうち、76%が停電による影響だったという。同社は地震発生直後の3月11日16時50分に第一陣の車載型基地局と移動電源車を配備。同13日の3時21分に最初の車載型基地局が稼働を始めた。移動電源車などに使う燃料用の軽油や重油は、平時から供給体制を確保していたが、「現地まで軽油を運ぶクルマに必要なガソリンの確保に一番手間取った」(田中社長)。最終的に秋田県の関連会社からガソリンを確保し、なんとか乗り切ったという。インフラの復旧に必要な装備が多岐に渡ることを物語るエピソードだ。

 なお震災直後は道路の渋滞や高速道路の通行止めがあったことから、物資の輸送が困難だったことも想像できる。この点について、KDDIには大きなアドバンテージがあった。KDDIの前身の一つは道路系の日本高速通信(テレウェイ)である。このため、「現在も高速道路を優先的に走れる車両を保有しており、いち早い復旧に役に立った」(同社の嶋谷吉治取締役執行役員常務技術統括本部長)という。

 車載型基地局、移動電源車の配備、既設基地局の大ゾーン化、衛星回線による中継網の活用によって、4月7日12時現在の停止中の基地局は東北6県で残すところ176局となっている。このうち福島原発の制限区域にある30局を除く146局について、新規の基地局建設に着手するなど復旧を急ぐ。なお同社が利用する周波数帯は2012年7月に予定する周波数再編によって、現在は旧800MHz帯と新800MHz帯が混在する状況だが、「基地局が全壊していなければ旧800MHz帯も含めて修理、全壊していれば新800MHz帯と2GHz帯の基地局を作っていくポリシー」(田中社長)とする。停電への新たな対策として、同社が沖縄など一部で展開するソーラーパネルとバッテリー、商用電源による「トライブリッド基地局」の配備も考えられるが、「復旧を急ぐ観点から、まずは通常の基地局を配備し、復興のフェーズでいくつか配備していきたい」(嶋谷本部長)とした。

4月7日夜の震度6強の余震で、新たに514局が停止中

 なお同社は、2011年4月7日の夜に宮城県沖を震源とする震度6強の地震が発生した影響で、4月8日午前12時現在、新たにau基地局514局に障害が起きたと報告した。障害の内訳は487局が停電、27局は回線故障によるものになる。現在停電中の基地局は1462局に上り、今後基地局のバッテリーが切れることによって被害が拡大する恐れもある。13台の移動電源車が出動し3台が稼働中という。

[発表資料:東日本大震災への対応状況と今後の見通しについて](PDF)
[発表資料:宮城県北部を中心とした地震の影響について(第4報 4月8日12時00分現在)]