図1 東京都内のビル窓際に置いた電波時計。左端と中央の時計は「はがね山」(60kHz)の電波を受信して、秒単位まで正確に合っている。右端の時計は古い機種で、現在停波中の「おおたかどや山」(40kHz)の電波だけしか受信する機能がなく、自動的には時間が合わせられなくなり、50秒ほど進んでいる。電波が受信できなくなると、電波時計の精度はクオーツ(水晶)時計の精度になり、遅れや進みが生じる
図1 東京都内のビル窓際に置いた電波時計。左端と中央の時計は「はがね山」(60kHz)の電波を受信して、秒単位まで正確に合っている。右端の時計は古い機種で、現在停波中の「おおたかどや山」(40kHz)の電波だけしか受信する機能がなく、自動的には時間が合わせられなくなり、50秒ほど進んでいる。電波が受信できなくなると、電波時計の精度はクオーツ(水晶)時計の精度になり、遅れや進みが生じる
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図2 電波時計の使用説明書の例(カシオ計算機のWebページからの引用。下線は編集部)。上の古い機種では、受信するのが「おおたかどや山」の40kHzの電波だけで、「はがね山」の60kHzの電波は受信しないと表示されている。下の新しい機種では40kHzと60kHzの2局を自動選局して受信するとある
図2 電波時計の使用説明書の例(カシオ計算機のWebページからの引用。下線は編集部)。上の古い機種では、受信するのが「おおたかどや山」の40kHzの電波だけで、「はがね山」の60kHzの電波は受信しないと表示されている。下の新しい機種では40kHzと60kHzの2局を自動選局して受信するとある
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図3 「おおたかどや山標準電波送信所」の送信局舎(独立行政法人 情報通信研究機構提供)。運用・保守のためには常に要員を配置する必要があり、無人運用はできない。事故のあった原子力発電所からの距離は約17kmで、避難指示を受けた20km圏内に位置するため、電波を止めて職員が避難している
図3 「おおたかどや山標準電波送信所」の送信局舎(独立行政法人 情報通信研究機構提供)。運用・保守のためには常に要員を配置する必要があり、無人運用はできない。事故のあった原子力発電所からの距離は約17kmで、避難指示を受けた20km圏内に位置するため、電波を止めて職員が避難している
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 一部の電波時計が正確な時刻を表示しなくなっている。東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、日本の標準時刻を伝えるための施設「おおたかどや山標準電波送信所」が2011年3月12日に電波の送出を停止したためだ。

 図1は東京都内のビル窓際に置いた電波時計。電波を受信するために必要な時間を十分に置いたもの。左端と中央の時計は秒単位まで正確な時刻を表示しているが、右端の古い時計は50秒ほど進んだ時刻を表示している。

 国内で販売されている電波時計は、情報通信研究機構が運用・送信している「標準電波(JJY)」を受信して時刻を正確に合わせる仕組みになっている。国内の標準電波は2つあり、福島県の「おおたかどや山」から送信される40kHzの電波と、佐賀と福岡の県境付近にある「はがね山」から送信される60kHzの電波。現在入手できる電波時計のほとんどは、40kHz/60kHzの両波から受信しやすい方を自動的に選択して受信する(図2)。

 しかし、古い機種だと40kHzの電波しか受信できないものがある。それは、おおたかどや山(40kHz)の電波は1999年6月に送信を開始したのに対して、はがね山(60kHz)の電波は2年以上後の、2001年10月に送信を開始したためだ。しかも、標準電波が正式運用される前に、「実験局(JG2AS)」として運用されていた期間もあり、実験局時代から電波時計は市販されていた。そうした古い機種が対応しているのは、おおたかどや山(40kHz)の電波だけで、はがね山(60kHz)の電波は受信できない。受信できない状態ではクオーツ(水晶)時計の精度になり、どうしても遅れや進みが生じる。

 送信所の場所の問題もある。おおたかどや山の電波は、北海道から九州東部辺りまでカバーしていたのに対して、はがね山は沖縄から関東辺りまでが事実上のカバーエリアとなっている。おおたかどや山が停波したので、たとえ新しい機種であっても、東北地方や北海道では電波時計の時刻が合いにくくなっている。「はがね山の電波で時刻が合わせられる北限はおおむね福島県辺りまで」(電波時計を販売しているマルマンプロダクツ)という。情報通信研究機構も「電波自体は北海道でもはがね山から届いているが、電波時計が受信できるほど強くない」としている。

 電波時計の時刻が正確でなくなっている場合、その機種が40kHz/60kHzの両波対応ならば、「パソコン、エアコン、蛍光灯、テレビなど雑音(ノイズ)を発生するものからは遠ざけ、建物の窓際などに置くようにしてください。方向は、できるだけ九州へ向けてください」(情報通信研究機構)としている。おおたかどや山(40kHz)の電波しか受信できない機種の場合は「クオーツ(水晶)の精度で、動作いたします。時刻合わせは、取扱説明書等を参照願います」(同)としている。

 現在、停波しているおおたかどや山は事故のあった原子力発電所からの距離が約17kmと、避難指示を受けた20km圏内に位置するため、電波を止めて職員が避難している(図3)。原発事故の先行きが不透明なため、再開のめどは立っていない。「内部的には色々な対策や、おおたかどや山の代替案も検討してはいるが、公表できる状態ではない」(情報通信研究機構)としている。