「地震と津波によって基地局や伝送設備がこれだけ被害を受けたのは、これまでに例がない」――。NTTドコモの山田隆持社長は2011年3月30日、NTT持ち株とNTT東日本と共同で開催した東日本大震災による被害と復旧状況に関する記者会見で、このように述べた(関連記事)。

 同社が公開した被災地の写真からは、その言葉通り、津波によって倒壊した基地局(写真1)や滅茶苦茶になった伝送設備など(写真2)、今回の地震と津波がもたらしたすさまじい破壊力が伝わってくる(写真3写真4)。

 同社の携帯電話サービスは、震災翌日の3月12日に全国で6720局もの無線局が停波。その多くは震災によって広域停電したことで、基地局が停止してしまったからだ。

 通常ドコモの携帯電話の基地局は「1~3時間給電できる蓄電池を持っている」(山田社長)。だがその時間を超過してしまえば、メンテナンスのために同社の担当者が基地局に行き、エンジンなどを使って蓄電池に充電しなければならない。「基地局に向かうにも地震で道路が分断されている。ガソリンも手に入らない。さらにはエンジンを回すための軽油も当初は手に入りにくかった」(山田社長)。

写真1●NTTドコモが公開した被災状況。こちらは宮城県松島野蒜に設置していた基地局設備が、津波によって倒壊している様子(NTTドコモ提供)
写真1●NTTドコモが公開した被災状況。こちらは宮城県松島野蒜に設置していた基地局設備が、津波によって倒壊している様子(NTTドコモ提供)
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写真2●滅茶滅茶に壊れた伝送設備(岩手県野田村、NTTドコモ提供)
写真2●滅茶滅茶に壊れた伝送設備(岩手県野田村、NTTドコモ提供)
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写真3●津波によって基地局設備がなぎ倒され移動している様子(宮城県石巻緑町、NTTドコモ提供)
写真3●津波によって基地局設備がなぎ倒され移動している様子(宮城県石巻緑町、NTTドコモ提供)
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写真4●ドコモショップも大きな被害に(宮城県石巻東店、NTTドコモ提供)
写真4●ドコモショップも大きな被害に(宮城県石巻東店、NTTドコモ提供)
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3月末までに9割復旧、残りも5月までに回復へ

 地震、津波に加えて、今回の大震災は上記のような苦労も降りかかった。だが自衛隊との連携によるガソリンの運搬、停波エリアへの移動型の基地局の配備、地震によって分断された中継回線の復旧などによって、3月28日までに全国で停波している無線局は約690局と約9割まで回復したという。

 なお今回の震災の被害の中心となった岩手、宮城、福島の東北3県では、第2世代のmovaの無線局約140局を除いた、第3世代のFOMAサービスの中断無線局は530局となる。「これまでは800MHz帯と2GHz帯で免許ごとに分けた無線局としてカウントしてきたが、今後は拠点数となる基地局数でカウントしたい。そうすると、サービス中断基地局数は375局。ここから現在立ち入りが難しい福島原発30km圏内の基地局68局を除いた、残り307局の復旧にまずは全力を注ぐ」(山田社長)とした。

 主な復旧方法としては、光ファイバーの敷設による途切れた中継回線の復旧、一つの基地局によるカバーエリアの拡大、中継回線にマイクロ波を活用する方法、衛星回線を使う方法などを用いる。これによって4月下旬までに残り307局のうちの、248局を回復したいとした。残る59局は山間部や道路トンネルなどであり、こちらも5月には回復を計画する。

 復旧はFOMAのインフラがメインとなる。ただ現在、東北3県には約3万3000人程度のmovaユーザーが残っているという。山田社長は「movaは2012年3月に停波するサービス。ユーザーの意向を聞きながらFOMA端末を配布する方法もありえる」とした。

「震災直後は通常の50倍ものトラフィックが集中」

 会見からは、震災直後の緊迫したサービス運営の様子も伝わってきた。山田社長によると、震災直後にはドコモのネットワークには通常の50倍ものトラフィックが集中。80%の通話規制を施して乗り切ったという。ただ音声などの回線交換と比べてトラフィックをさばきやすいパケット通信については、「直後に30%のメール規制を強いたが、すぐに余裕が出たために規制を解除した」(山田社長)。

 こうした点から、山田社長は震災時などには、通話ではなくメールを使ってほしいと呼びかけた。ちなみにこの点に関連して、同じ会見に登壇していたNTT東日本の江部努社長が「固定電話はそれほどトラフィック増にはならず、すぐに規制を解除した」と語る場面もあった。

 なお東京電力管内では今後も計画停電が続くため、基地局への影響が考えられる。特に多くの電力需要が集中する夏にかけては、今回の震災による広域停電と同じように、基地局の予備電源が持たなくなる可能性もある。山田社長は「特にマンションの上の基地局など、大きなバッテリーを物理的に用意できない局では1時間程度しか持たない。これらを夏までにすべて対応するのは困難」という見方を示した。

 ただこのようなケースでも、隣接する基地局の出力を上げるなどして、利用者に迷惑がかからないようにしていきたいとした。さらには現在、冗長構成によってホットスタンバイ状態になっている設備の運用を見直し、電力のスリム化も検討したいという

 このほか山田社長は、今回の震災で威力を発揮しているエリアメールについて、これまでのiモード端末に加えて、秋冬モデルからはスマートフォンにも対応させたい考えを示した。アプリケーションによって実現するのではなく、端末に専用チップを搭載する方向という。