金融庁は2011年3月30日、J-SOX(内部統制報告制度)を簡素化・明確化する方針を打ち出した文書を公表した。内部統制監査や内部統制の運用の効率化、中堅・中小の上場企業に対する簡素化などを実施する。加えて「重要な欠陥」を「開示すべき重要な不備」に見直すとした。11年4月1日以降に始まる事業年度から適用する。

 金融庁が公表した文書は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」。意見書はJ-SOX対応の教科書に当たる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(基準)」と、参考書に当たる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(実施基準)」で構成する。簡素化・明確化策に合わせて、両者を改訂した。

 改訂の内容は大きく四つある。(1)企業の創意工夫を生かした監査人の対応の確保、(2)内部統制の効率的な運用手法を確立するための見直し、(3)「重要な欠陥」の用語の見直し、(4)効率的な内部統制報告実務に向けての事例の作成、である。

 (1)では、企業が実施した内部統制の評価を尊重するように監査人に求めている。実施基準に「各監査人の定めている監査の手続きや手法と異なることをもって、経営者に対し、画一的にその手法等を強制することのないように留意する」と明記した。このほか財務諸表監査と内部統制監査の一体実施による効率化を改めて促している。

 (2)では、評価範囲の明確化や評価方法・手続きの簡素化策を複数打ち出している。全社的な内部統制の評価範囲について、これまでは「重要性が僅少である事業拠点」としていたのを「売上高で全体の95%に入らないような連結子会社」といった趣旨を例示している。

 「重要な欠陥(開示すべき重要な不備)」の判断基準については、金額的な重要性を実施基準が示す数値例通りに決めるのではなく、特殊要因などによって重要な欠陥(開示すべき重要な不備)と見なさないとする措置があり得るとしている。

 J-SOX対応を担当する人員が十分でない中堅・中小企業に対しては、特に簡素化・明確化策を打ち出している。「経営者が直接モニタリングを実施した結果」や「監査役が直接行った棚卸しの立会い結果」を、内部統制の評価結果として使えると例示。経営者から社内への通達文書や後任者への伝達文書といった社内で作成した書類も、評価の際に記録として利用できるとの例示を加えた。

 (3)では、内部統制の整備・運用状況に不備があり財務報告に虚偽記載がある可能性があることを示す用語を、これまでの「重要な欠陥」から「開示すべき重要な不備」に改めた。「重要な欠陥」が「企業自体に欠陥がある」との誤解を招く恐れがあるとの指摘により変更したもの。判断基準はこれまでと変わらない。

 (4)では、小規模または簡素な組織構造を持つ企業から、内部統制を効果的・効率的に整備・運用している事例を集めて紹介する。基準と実施基準とは別の文書として作成し、今後、公表する見込みだ。

 今回のJ-SOX簡素化・明確化は、09年3月期のJ-SOXの適用開始から2年を経て企業の意見などを取り入れた結果だ(関連記事:J-SOX簡素化の骨子が具体化、基準・実施基準の改正案登場金融庁がJ-SOX基準・実施基準の簡素化案を公開、事例も募集開始)。金融庁は、基準と実施基準の改訂に合わせて「内部統制監査の実務指針においては、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続きの下で、早急に作成されることが要請される」と意見書の前文で述べている。内部統制監査の実務指針とは、日本公認会計士協会が07年10月に公表した「監査・保証実務委員会報告第82号 財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」を指す。