ガートナージャパンは2011年3月22日、「東日本大震災がICT市場/産業に及ぼす影響」と題するレポートを公開した。ITサービス、サーバー、通信、携帯電話端末、パソコン、半導体、複写機/複合機・プリンタの7つの市場について分析している。短期的にはサプライチェーンの混乱がボトルネックとなり大きな影響が現れる可能性があるが、長期的には顧客企業が震災によって直面している課題解決を支援することが、ベンダーにとって貴重な資産となると指摘している。

 国内ICT投資動向についてガートナーでは震災前、企業による2011年のICT投資を「微増」と見込んでいた。しかし原子力発電所事故と電力供給の問題、円高、原油高騰が日本経済全体に及ぼす影響により、投資動向を「微減」に修正した。震災前に予定していた新規ICT投資が復活する時期は、原発トラブルや電力供給問題の解決時期に影響されるが、企業活動が正常な状態に戻ってから半年~1年後と見積もっている。

 市場別の分析として、ITサービス市場については、東京以北に拠点を持つユーザー企業での需要低迷、ハードウエア製品のサプライチェーン中断により、短期的にマイナス要素が大きいと見ている。だが事態が復興へと向かえば、中期的には、ビジネス継続を目的とするセカンダリ・サイトや分散型データセンターへの顧客の関心が一層高まるなど、データセンター・サービスの需要が新たに喚起されると予測している。

 サーバー市場は、GDP(国内総生産)や情報化投資指標の傾向とほぼ連動する。そのため日本経済全体の下ぶれにより、国内サーバー市場の成長も失速すると見ている。また今回の災害を教訓とした厳しいガイドラインや設置基準、調達の代替案提示の規定などが設けられ、ベンダーはそれらへの対応を迫られると予測している。

 通信市場については、市場規模に関する大きな変化は短期的には想定していない。ただし企業ネットワーク機器市場では2010年度と2011年度前半は、需要低迷と一部での供給不安定な状況が続くと予想している。また既存インフラストラクチャーの復旧が優先され、次世代ネットワーク(NGN)やLTE(Long Term Evolution)など新規ネットワークへの移行計画は遅延する可能性があると見ている。

 携帯電話端末市場については、国内における主要部材の生産と物流の停止または遅延が、国内外の端末供給にネガティブな影響をもたらすと見ている。しかし震災により、情報発信/収集ツール、およびオフィス外での部分的なビジネスツールとしての有効性も改めて認識されたため、中長期的には従来の成長シナリオを大きく見直すことは現時点では考えていないとしている。

 パソコン市場については、短期的には部材不足や物流の遅延、消費者や企業の購買意欲低下により成長速度が低下する。そらにその後、BCP(事業継続計画)強化、出先での主要情報ツールの利便性追求などにより、ユーザー企業と一般消費者の間で「モバイル志向の高まり」と「PC離れ」が加速すると見ている。

 半導体市場については、市場全体 (デバイス供給) に及ぼす影響は相対的に軽微だとする。ただし、材料であるウエハーの製造ラインが損傷を受けたと報告されているため、2011年以降、日本および世界の半導体デバイスの製造にネガティブな影響を及ぼすことが考えられるとしている。

 複写機/複合機・プリンタ市場については、オプション (フィニッシャや紙折機) や基幹部品などの国内調達品、および国内で生産している高速機や消耗品の生産に影響が出るのは必至としている。将来的には、機器を資産として所有せずに印刷枚数に応じて支払いを行うサービスへの関心が高まると予想している。

 以上を踏まえ、ガートナーではベンダーに以下のような行動を推奨している。直接的/短期的にはサプライチェーンにおけるボトルネックの評価を実施し、それらを織り込んだ対応計画を策定し、追加コストの手当てを含めた積極的な対応を取ること。当面は新規投資ではなく復旧に向けた製品/サービスの提案とその提供体制を取ること。顧客企業が震災によって直面している課題の解決に向け、積極的かつ徹底した支援を行っていくことで、顧客との信頼関係、通常では獲得することが困難な経験と実績など長期にわたる貴重な資産を得られると指摘している。

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