写真●Cloud Days Tokyo 2011で講演する、日立製作所クラウド事業統括本部の小川秀樹担当部長(写真:皆木 優子)
写真●Cloud Days Tokyo 2011で講演する、日立製作所クラウド事業統括本部の小川秀樹担当部長(写真:皆木 優子)
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 「何でもかんでもクラウドに移行すればいいわけではない。適材適所でクラウドを利用するために、まずは社内のITシステムを整理することが大事だ」。日立製作所クラウド事業統括本部の小川秀樹担当部長(写真は3月2日、日経BP社主催のクラウドコンピューティング専門展「日経BP Cloud Days Tokyo 2011 Conference & EXPO」の基調講演で、こう指摘した。

 日立は2009年に「Harmonious Cloud(ハーモニアスクラウド)」というブランドを立ち上げ、グループを上げてクラウドへの取り組みを強化している。「昨年まではクラウドを“勉強”したいという姿勢の顧客が多かったが、今年に入り具体的に使いたいという相談が増えてきた」と小川氏は語る。その際に重要になるのが、事業仕分けならぬ「システム仕分け」だという。

 小川氏は、ある金融機関の事例を基に仕分け方法を解説した。まずは社内に複数あるITシステムを「コア業務」と「ノンコア業務」に分類。それをさらに「定型領域」と「非定型領域」の二つに分け、4種類に類型化する。

 例えば、メールやグループウエアのようなシステムは「ノンコア」で「定型」に分類し、マーケティングや融資審査などは「コア」で「非定型」とする。まずはこのように仕分けをした後で、ノンコアな定型業務はパブリッククラウドを利用し、非定型で社外にデータを置けない業務については、プライベートクラウドを利用することを検討すべきだという。

 「企業のITシステムはビジネス環境の変化に合わせて、パブリッククラウドとプライベートクラウド、既存システムの3つを選択し、組み合わせて使うようになる。ハイブリッドな環境を構築して、自社のITインフラを最適化する時代になる」と小川氏は語る。

 日立はこれまで、メールや人事給与など、各部門やグループ会社で共通する業務の集約を進め、プライベートクラウドを構築してきた。そこで注力したのが、「クラウドへの入り口となる認証基盤を整備すること」(小川氏)だ。

 具体的にはシングルサインオンの仕組みを整え、複数サービスへのログインシステムを共通化したという。「数十万人の社員が働く日立グループでは、毎年4月の人事で相当数が異動する。入退室管理や情報アクセス権限の変更は、即座に実施する必要がある。シングルサインオン機能を導入してユーザー管理を自動化することで、業務効率が向上した」と小川氏は語る。

 日立は今後、各企業が様々なクラウドを組み合わせて使うようになると想定している。各クラウドを統合して便利に使うツールとして、シングルサインオンは重要度を増すとみられるため、「そういう仕掛けを近々用意したい」(小川氏)。日立がグループ全体で運用した実績を基に売り込んでいく考えだ。

 一方で小川氏は、「一般にはクラウドを使えば安くなり、便利になると思われがちだ。しかし、既存システムとクラウドが混在すると運用が複雑化して、コストが高くなるリスクもある」と警鐘を鳴らした。顧客企業がスムーズにクラウド環境へ移行できるように、日立は導入相談やクラウド環境の検証などの支援サービスを充実させていくと語った。