写真●「僕はクレージーガイ」と自らを笑いとばす、ソフトバンクの孫正義社長
写真●「僕はクレージーガイ」と自らを笑いとばす、ソフトバンクの孫正義社長
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 「世界の携帯電話事業者はもはや成長が望めない“憂うつな現実”に直面しており、米シスコや米アップル、米グーグルばかりがお金を稼いでしまっている。しかしそれに打ち勝つ方法はある」ーー。ソフトバンクの孫正義社長(写真)は2011年2月16日、スペインバルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2011」のキーノートセッションに登壇し、このように発言。自虐的なギャグも交えつつも巧みなスピーチを展開し、会場を沸かせた。

 冒頭から孫社長は「僕はクレージーガイと呼ばれている」と飛ばし、会場から苦笑を誘う。ボーダフォンの買収のために2兆円もの借金を抱えたのにもかかわらず、携帯電話事業がもはや劇的な成長を望めない“憂うつな現実”に直面しているからだ。

 孫社長は世界の携帯電話事業の予測として、契約者は5年で1.5倍程度に低迷、ARPUは1/1.5に下降すると説明。「かけ算をすれば5年でゼロ成長。僕が賭けた2兆円の借金は完全な負債になってしまう」(孫社長)。しかもデータトラフィックは今後5年で30倍と爆発的に増える予測であり、「次々と設備投資が必要になる。これでは米シスコのジョン・チェンバースCEOばかりがハッピーだ」(同)と、同じセッションに参加するシスコのチェンバースCEOをさかなにしながら、携帯電話事業者が直面する現実を自虐的に笑い飛ばした。

 そんな孫社長は「そんな現実に打ち勝つ方法は二つある」と切り返す。一つはシェア拡大、一つはARPUの向上だ。孫社長は、ソフトバンクモバイルの加入者が拡大傾向にあること、音声サービスからモバイルインターネット中心のビジネスへと移行したことでデータARPUが向上していることを説明。日本でも繰り返し強調する「勝利の方程式」(関連記事)も引き出しながら、モバイルインターネットへとアグレッシブにビジネスを転換することが携帯電話事業者が生き残る道とした。

 孫社長が登壇した前日の2月15日に開催されたキーノートセッションには、米AT&Tや英ボーダフォン、スペインテレフォニカら世界の大手携帯電話事業者のトップが参加。まさに孫社長が語る“憂うつな現実”について、ぼやく場面が目立った。もちろんソフトバンクにとっても増え続けるトラフィックに対し次々と必要となる設備投資は笑えない現実であり、“勝利の方程式”がどこまで通用するかも分からないだろう。しかしそこをあえて自虐的に笑い飛ばし、明快なメッセージを打ち出す孫社長のスピーチは、バルセロナの会場に足を運んだ多くの通信業界関係者にも響いたようだ。