SAPジャパンは2010年12月7日、インメモリー技術を利用してデータ処理を高速化するソフトウエア「SAP High-Performance Analytics Appliance(HANA)」を発表した。SAPのERP(統合基幹業務システム)などのビジネスアプリケーションのトランザクション用データベース(DB)や、分析用のデータウエアハウス(DWH)の処理の高速化を狙う。

 SAPジャパンのギャレット・イルグ社長は「これまでバックエンドのシステムからデータを取得して利用したい場合は、バッチ処理の時間を待つ必要があった。これはリアルタイムの情報を必要とする現実の業務と合っていない。HANAを利用すれば、バッチの時間を待たずに業務に必要な情報を適切に取得できる」と強調した。

 HANAの特徴はDBのレプリケーションエンジンを搭載し、「OLTP(オンライントランザクション処理)のデータであってもリアルタイムにHANA上に移行できる」(SAPジャパンの福田譲ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部長兼プロセス・製造産業営業本部長)こと。これにより「リスクを限りなく低減した状態で、OLTPとOLAP(オンライン分析処理)の両者をHANA上で実行できる」(同)という。レプリケーションエンジンは買収した米サイベースの技術を利用している。

 小売業でのリアルタイムな在庫最適化や、為替変動の影響が大きく営業が受ける業務、営業活動における顧客分析といった分野での活用を想定している。福田本部長は「米アップルの発想を企業向けのデータ分析に取り込むことを目指している。アップルは音楽の利用シーンを変えた。自分が聞きたい曲が一瞬で検索できるようになり、手元になければオンラインで購入できる。同様に、HANAを利用することで必要なデータが一瞬で検索でき、入手できるようになる」と説明している。

 本日出荷する「HANA 1.0」は、SAPのDWH構築ソフト「SAP BW」で管理するデータを中心に移行できるバージョンとなる。来年出荷予定の「HANA 1.5」では、他社のDWH構築ソフトも対象にする。この段階で「企業内のすべてのDWHがインメモリー環境で利用できるようになる」(福田本部長)。

 「HANA 2.0」の段階でOLTP向けのDBもHANAの稼働の対象とし、この段階で「ERPのDBソフトが不要になる」と福田本部長は説明する。ただし「SAPが本格的にDB市場に参入するわけではない」(Co-innovation Lab Tokyoでイノベーションデザイン&デベロップメント担当の馬場渉氏)としている。

 HANAは日本IBMや日本ヒューレット・パッカードのサーバーに搭載し、アプライアンス製品として出荷する。インテルのCPU「Xeonプロセッサー7500番台」向けに最適化している。価格は公表していないが「4500億件のデータ処理をする場合、ハードウエアのみの価格で4000万円程度」(馬場氏)という。SAPジャパンの直販のほか、パートナー経由でも販売する。SAPジャパンは、SAP製品の既存ユーザーを中心に販売し、来年度中に30社への出荷を目指す。