写真●第2回内部統制報告制度ラウンドテーブルの様子
写真●第2回内部統制報告制度ラウンドテーブルの様子
[画像のクリックで拡大表示]

 日本内部統制研究学会は2010年11月24日、第2回内部統制報告制度ラウンドテーブルを開催した。J-SOX(内部統制報告制度)に対応する企業や監査法人、コンサルティング会社、市場関係者、弁護士、学者など18人がJ-SOX適用3年目を迎えた現状を、それぞれの立場から3時間半にわたり話し合った(写真)。

 ラウンドテーブルでは、J-SOX3年目の現状や、J-SOXを見直す際の方向性、J-SOXに限らない内部統制の展望などが議題として上がった。特に現在、金融庁企業会計審議会内部統制部会でJ-SOXの見直しの議論が進んでいる(関連記事)ことを受けて、企業側から簡素化の要望が出た。簡素化すべき点については、「中堅中小だからといって上場している企業に対して簡素化は必要なのか」「制度の枠組みそのものではなく、運用を中心に見直すべきではないか」といった意見が出た。

 J-SOX3年目の現状について、司会を務めた青山学院大学大学院の八田進二教授は、「内部統制という言葉は浸透した」との見解を示した。一方で参加者の意見をまとめ「制度自体に対する理解が不十分だという意見が多い」と指摘した。

 監査法人トーマツの久保恵一氏は「現場では、実施基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)で例示している数値に沿って内部統制の整備・運用状況を確認すればいい、という雰囲気がある。それで本当に制度の趣旨にのっとっているのか」と疑問を投げかけた。

 野村総合研究所未来創発センターの大崎貞和氏は、「訂正内部統制報告書」を提出する企業が多い点を挙げ、「形式的に対応している企業が多いのではないか」と指摘した。訂正報告書は、「内部統制は有効である」と結論付けた内部統制報告書を提出した後に、内部統制に問題がある可能性が高い「重要な欠陥」が発覚した場合などに「内部統制は有効でない」と訂正するために提出する。

 青山学院大学大学院の町田祥弘教授も「制度の有効性の観点から、訂正報告書の提出が相次いでいる背景を分析すべきだ」と強調した。「問題が発生した時に訂正すればよいという安易な評価姿勢を抑制したほうがいい」との考えだ。

 オブザーバーとして参加した経済産業省経済産業政策局企業行動課大臣官房企画官の平塚敦之氏は「効果が分かりにくい点を企業側は問題だと感じている。このため、多くの経営者が制度に取り組む意義を実感していない」と指摘。三菱電機常任顧問の佐藤行弘氏も「企業側のコスト負担が問題」として、大幅な簡素化を求めた。

 J-SOXの投資対効果が明確でない点は、企業、公認会計士、弁護士、学者など多くの関係者が指摘していた。牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士は、「内部統制システムの確立だけでなく、内部統制の効果を数値化して示せるような測定指標の設定を企業や監査法人に求めるべきだ」と主張した。

 同時に「過度なコスト負担になっている」と多くの指摘があったのが、公認会計士による外部監査だ。東京証券取引所上場部長の松崎裕之氏は「中小規模の上場企業や新興市場の上場会社が公認会計士の指摘に反論するのは難しい傾向がある。その結果、企業に過重な負担を強いているケースがある」との見方を示した。

 ラウンドテーブルではこのほかに、負担を軽減するためのリスクアプローチの徹底や、IFRS(国際会計基準)との関係など幅広いテーマを語り合った。IFRSについては「原則主義のIFRSになった場合にも耐えうる内部統制報告を企業は構築できているのかが課題だ」(プロティビティジャパン社長の神林比洋雄氏)といった意見が出た。内部統制報告制度ラウンドテーブルの開催は昨年に引き続き2回目となる(関連記事1関連記事2)。