総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」(ICTタスクフォース)は2010年11月22日、「過去の競争政策のレビュー部会」「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」の合同会合(写真1)を開き、2015年までにブロードバンドの100%普及を目指す「光の道」構想実現に向けた骨子案を示した。焦点となっていたNTTの組織形態は、光回線事業を分社化せず、現行の経営形態のままNTT東西のボトルネック設備保有部門と他部門とで人事・情報・会計などのファイアウォールを厳格化する、「機能分離」が「最も現実的、効果的」とした。
光ファイバの分岐回線単位の接続料設定などを求める
骨子案は、主にNTTの在り方を含む競争政策の推進に重点を置いた。その中で、設備競争の観点からは線路敷設基盤のさらなる開放の検討を求めた。サービス競争の観点からは、これまで1芯単位でまとめて借りられなかった光ファイバの接続料を、分岐回線単位(いわゆる一分岐貸し)での接続料設定に見直すべきではないかとした。これによってFTTHのサービス価格が下がる可能性がある。さらに中継網のオープン化も求め、NTT東西のNGNに対して、「プラットフォーム機能(認証・ネットワーク制御機能など)のオープン化が必要ではないか」とした。
競合事業者から「公平な競争環境が担保されていない」という意見が相次いでいた(関連記事)NTTの組織形態については、NTT東西の設備を自らが利用する場合と他事業者が利用する場合で公平な競争環境を確保できるかどうかという観点で遡上にあがった。その結果、骨子案ではNTT東西の組織形態について、構造的な措置が伴う「資本分離」、「構造分離」、伴わない「機能分離」の3案について検討。構造的な措置に伴うNTT既存株主への影響、実現に至るまでの時間、コストを勘案した結論として、3案の中で「機能分離」が最も現実的とした。
ソフトバンクの光アクセス会社構想は「不確実性が高い」
一方、ソフトバンクから提案があった資本分離による光アクセス会社構想については、「事業成立の可能性、メタルから光へのマイグレーションにかかわる諸課題を踏まえると、不確実性が高い」として退けた。
機能分離の範囲については、アクセス網と中継網を対象とし、部門間のファイアウォールの設置については金融機関などが実施している取り組みを参考にする考え。なお、他事業者から指摘された「子会社や委託会社への業務移管を通じて、NTT東西に課せられた規制を形骸化させている」という点も受け止め、「NTT東西に対し、規制の内容を委託先子会社などにも遵守させるための措置を講じることが適当ではないか」とも記載された。
NTT東西に対する規制の強化に加えて、規制緩和も一部盛り込んでいる。具体的には「機能分離や子会社等との一体経営への対応等によるさらなる公正競争確保を図った上で、支障が生じない範囲内で、市場の環境変化や消費者ニーズに迅速に対応できるような必要な制度の見直しを行うことについては、一定の合理性があるのでは」とし、NTT東西によるサービス範囲の拡大に含みをもたせた。
事業者ヒアリングで各社が求めた、総合的な市場支配力に着目した規制、いわゆるSMP(Signigicant Market Power)規制については、「規制全般の抜本的な見直しが必要になり、十分な検討が必要」と、導入に向けて時間をかける考えを示した。規制の枠組みを検討する間は、まずは前述のようなNTT東西と子会社との一体経営についてメスを入れる。
骨子案を基にした構成員による意見交換では、「ターゲット年月の記述をもっと明確にすべき」「作業部会が結論を導くのではなく、最終的に政治判断すべきではないか」「ソフトバンク案の妥当性の検討は資本市場であるべき」といった意見が出た。これらの意見を受け止めた電気通信市場の環境変化への対応検討部会座長の山内弘隆一橋大学教授は「骨子案に対する完全な異論はなかった」と発言。30日に開催される会合では、今回の骨子案をベースにした最終報告をまとめる見込みとなった。その後、政務三役と各部会の座長、座長代理で構成する政策決定プラットフォームにて、最終決定される予定だ。
ソフトバンクの孫社長「具体的な代案になっていない」
今回の会合の様子はソフトバンクの孫正義社長も傍聴した(写真2)。同社の案が「不確実性が高い」と退けられたことについて、「閣議決定された2015年の“光の道”の完成について、骨子案はなんら答えになっていない。あやふやな機能分離だけで、期限も伴わず“ざる”になる可能性がある。我々の案の具体的な代案にもなっていない」(孫社長)と不満を示した。