「IFRS(国際会計基準)対応の方針を検討する際は、余計な負荷をどれだけ軽減できるかを重視した」。NECの関沢裕之経理部主計室長は2010年11月18日、連結会計ソフトを開発・販売するディーバのカンファレンス「DIVA LIVE 2010」でIFRS対応プロジェクトの現状を報告した。NECはIFRSの早期適用(任意適用)の方針を打ち出している。

 日本の上場企業に対して、IFRSの強制適用(アドプション)の可否が決まるのは2012年で、適用が決まると早くて2015年または2016年に適用される見込みだ。ただし、条件を満たす上場企業はIFRSを早期適用できる。NECは2012年度第1四半期(2012年4~6月)からIFRSに基づく財務諸表の作成・開示を始める方向で、準備を進めている。

 同社はIFRS対応を(1)分析、(2)体制構築(方針策定)、(3)試行、(4)本番という四つのフェーズで進めている。2009年11月にプロジェクトを開始、(1)の基準差異分析を2010年1月までの3カ月で完了。現在は(2)の段階。2010年1~6月で、グループ全体のIFRSに基づく会計方針『NEC IFRSグループ連結会計基準書』を策定した。分量は「500ページ以上に及ぶ」(関沢氏)という。

 続いて、(3)を2011年度(2011年4月~2012年3月)に実施する。ここは比較対象年度として、IFRSに基づく開示を試行する。(4)の2012年度からIFRS適用を本格的に開始するというスケジュールを計画している。「準備期間は実質2年。無謀ともいえるが、トップダウンで決まった」と関沢氏は話す。

 IFRS早期適用に向けて、関沢氏は大きく「効率性」と「プロジェクトマネジメント力」の2点の重要さを強調する。前者については、準備期間が短いことから無理のない形で進めることを意識しているという。

 一例が本社と子会社、関連会社で決算期が異なる場合、統一するかどうかという「期ずれ」の問題だ。同社はグループ会社の大部分が3月決算なので、「無理に決算期を統一するのでなく、3月期決算でないグループ企業については重要な取引に関して修正することで対応する」(関沢氏)方針を採っている。

 会場からは「重要な取引とは何か」という質問が出た。関沢氏は「全体の決算に影響を与える取引は基本的に含める」と説明した。ただし、「今後はグループで決算期を統一する方向で考えていく」(同)とする。

 子会社決算や情報システムについても、効率性を重視して対応する。子会社の決算は基本的にローカル基準に基づいて実施する。その結果から組替仕訳によってIFRSに基づく財務報告を作成する形を採る。この部分も「そう遠くない時期にグループ各社ともIFRSに統一していきたい」と関沢氏は話す。

 情報システムでは、NECは独SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージを利用して基幹システムや業務プロセスの標準化を進めている。IFRS対応の際はSAPのシステムを利用するが、「減価償却や減損など優先度が高い項目のみ対応する」(同)方針だ。

 プロジェクトマネジメントに関しては、IFRS対応をスムーズに進める方策として専任チームの設置や外部専門家の活用を挙げる。

 NECはIFRS対応にあたり、決算メンバーとは別に8人の専任チームを設置した。「多忙な担当者を専任チームメンバーとするのは容易でない。しかも、チームにはキーパーソンを集める必要がある。だが、疑問が出たときにすぐに相談してその都度解決できるなど、専任チームのメリットは大きい」と関沢氏は話す。NECの場合は「トップダウンで、半ば無理やりメンバーを集めた」(関沢氏)という。

 さらにコンサルティング会社(関連会社のアビームコンサルティング)や監査法人の外部専門家をメンバーに加えた。「プロジェクトマネジメントや基準の解釈は内部だけでは困難だった」(関沢氏)からだ。

 ほかにプロジェクト推進のポイントとして、「会計方針を自社が主導して作る」「柔軟なプロジェクトマネジメントを可能にする」などを関沢氏は挙げる。